空の上の教室
夢を見た。
私は子どもだった。
木造りの教室に、同じくらいの年齢の子供達がいて
ちいさな長机と長椅子に行儀よく座っている。
私は机には座らず、教室の隅で床に座っていた。
黒板の前には教師が立って
他の子供たちに向けてなにか授業をしている。
どうもここは空の上にあり、子供たちは
これから地上へ赴くために必要なことを学んでいるようだ。
床に座った私に、白髪の髪の長い老父が
模型のおもちゃのようなものを見せながら何か説明をしている。
なんとなく授業についていけない、落ちこぼれの私のための特別授業のようだった。
そんな中私は、窓の外を見て無邪気に声を上げた。
「わぁ、綺麗な金色。」
窓の外には空の上だというのに
朝日を受けて黄金色に輝く銀杏の樹々があった。
老父は優しく微笑んだ。
「私はね、あの金色の銀杏の樹のように、美しい心の持ち主を知っているよ。」
私はなんのことかわからずに、老父を見つめた。
老父は続けた。
「光輝く時が来たよ。」
私を見つめる深い深い愛を讃えた老父の眼差しに、
「あぁなんだかこの眼をずっと昔から知っている気がする。」
そう思って目が覚めた。
目が覚めても暫く老父の声が頭に響いていた。
そして幼少期の朧げな記憶が蘇る。
家族の色々な問題を幼いながらに一心に受け止めようとしていた幼少期。
自分が頑張れば家族はひとつになれると信じていた。
そんな中子供心に色々なストレスや不安を背負い込み、小学校にあがっても時々おねしょをしてしまう事があった。
また布団を濡らしてしまった、
夜遅くまで仕事して疲れて寝ている母を起こして布団を干してもらわないといけない、と寝ぼけながらとても悲しい気持ちになる。
その日も隣で寝ていた母を起こし、シーツをはがしていると
大きな窓ガラス一面が金色に染まっていて、
「なんだろうね?」と窓を開ける母。
そこには朝日を受けて黄金に輝く銀杏の樹があって、それは美しく不思議と神々しくも見えた。
その光景に暫く言葉も忘れて見惚れていた。
母も「おねしょのおかげで、早起きして、いいもの見れたね。」と笑顔でいて
私はそのとき、何か樹々に悲しい気持ちを慰められたような気がしていた。
あれから歳月は流れたけれど
都会で生まれ生き抜いていくには感受性が強すぎる私は
皆より周回遅れで転びながら、立ち止まりながら、ようやくなんとか走っていて
でもきっと私が見た夢のように
落ちこぼれていても皆について行けなくても
そんな事は何も関係なくすべてを慈しみ愛してくれる
あの老父のような
大きな大きな存在の御胸の中に
常に私達は抱かれて生きているんだと思う。