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七草にちかに、本当に足りなかったものは何だったのか

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※七草にちかWINGコミュのネタバレを含みます

4月7日0時現在(書いてる当時)、4月5日12時にアイドルマスターシャイニーカラーズに七草にちかが実装されてから36時間が経過しました。感情、未だ収まりがつきません。

「自分を支えてくれたアイドルに憧れて、アイドルへの夢を抱く」。これだけありきたりなバックボーンを抱えた七草にちかが、なぜあそこまで苦しまなければならなかったのか。

「残酷なまでに平凡だったから」も無論、理由としてあると思います。しかし、現に彼女が費やした労力は”凡人の200%”を発揮する領域に達し、遂にはWINGの優勝を勝ち取るまでの実力に至りました。この結果を導いた要因に、私には「八雲なみの模倣」で霞んで見えなかった、にちか自身の才があるように思えてならないのです。

以下の考察と呼ぶには耐え難い妄想は、そういう七草にちかに対しての希望的観測、というより希望そのもので書かれています。私の中では、にちかのWING優勝の決め手が何であったのかというところで個々人の解釈が分かれるストーリーだと考えていて、続きが未だ存在しない以上、すべての解釈が正しいとも、間違っているとも決めようがないものだと思っています。

なので、あくまで「こういう見方をする奴もいるんだな」と思っていただければ幸いです。

七草にちかに足りなかったのは

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七草にちかが”幸せ”になるために、決定的に足りていなかったもの。それは才能ではなく、”個””時間”だと考えています。それはすべて、彼女のそれまでの環境によってもたらされた結果、絡み合った因果のせいであって、そこからの救済こそが、彼女のポテンシャルを見出せなかったプロデューサーが、彼女を採用するに至った理由だったのではないでしょうか。

まず、”個”の話をします。WINGコミュを通じて何度も語られるとおり、プロローグ「<she>」において半ば強引に始まった即興オーディションからずっと、その後何度も行われるにちかの”模倣”に対し、プロデューサーは常に懐疑的な態度を取り続けます。

シーズン3「on high」においては、その模倣がダンスのクオリティに影響を及ぼしていたから、というパフォーマンスに関わる明確な理由がありましたが、それがにちかの目指す完成系なのであれば、プロデューサーはそれに強く否定を示す人間だとは思いません。問題なのは、にちか自身がそれによって追い詰められていた事、そして最初の即興オーディション、その時点から「模倣した瞬間にくすんでしまう」現象に苛まれていた点についてです。

「誰かに憧れてアイドルになった」のは、イルミネーションスターズの風野灯織と同じ動機で、「自分でない自分を演じ続ける」のは、ストレイライトの黛冬優子と和泉愛依の活動にも似ています。しかし、灯織の憧れは自らの”個”を獲得するための(=アイドルとして活躍するための)きっかけにすぎず、ストレイライト二名については、「自分が望んで/他者に望まれて生み出した、もう一人の自分」であるからこそ、自らのアイデンティティとして獲得することに成功しています(実際、愛依については自分がなし崩し的に付け加えたキャラクター性であったが故に、プロデューサーは悩み続けた訳ですが)。

しかし、七草にちかに形成された”個”、つまりアイデンティティは、”自分”の中に存在しない、初めから完全に「八雲なみ」という他者へ依存している物です。それはおそらく、アイドルとしての活動を通じて形作られていったものではなく、アイドルを志す以前より、にちかの唯一の誇りと言ってもいい形で燻り続けていた物なんじゃないでしょうか。

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「八雲なみが好きな自分」。うがちすぎた見方をするなら、「20年前に流星の如く現れ、カルト的人気を誇ったアイドルが大好きな、16歳の自分」。

ただただ凡庸と認めざるを得ない自分の、唯一「ものすごくアイドルが好き」という誇り。自らに明確な才を見出せなかったからこその、アイドルの世界での存在理由。それは「自分が他人に認められるわけがない」という自己否定から生まれた虚栄のようで、半ば無茶だと理解していて、それでも諦めきれなかったアイドルの世界に対して、八雲なみへのオマージュ要素を含む「アイドルへの造詣の深さ」を武器にしようとしたのも、彼女自らも否定し難い平凡さをもってなお、”七草にちか”という存在の非凡さを、自分が大好きな世界に生きる人々に、どうか肯定してほしいという感情から生まれたもののように思えます。

それをにちか自身の”個”として認めないのであれば、にちかにはアイドルの世界で存在し続けるだけの理由がなくなってしまいます。だからこそ彼女はプロデューサーの「本当に楽しいのか」という問いに反発し続け、自分はこの世界に存在するにふさわしくないという自らの思いへの否定のために、八雲なみへのオマージュを続けていたのではないでしょうか。

にちかにとって、「そうだよ」は自分の背中を押す何者にも代えがたい自信の材料であり、八雲なみとは、自らをそばで支え続けた信仰のような存在です。そこに「同世代の人間は誰も知らない」という条件が加われば、にちかにとってまさに”カルト的”な信仰の芽生えとなって、「八雲なみを知る者」としての自分が、彼女唯一のアイデンティティとなっていったというのは、考え得る話だと思います。

その絶対的信仰が揺らぐのが、シーズン4「may the music never end」における、白盤「そうなの?」との邂逅です。

自分の中で作用してきた絶対的な肯定が、疑念に変わる瞬間。”合わない靴”を履いてでも、世間に認められることで、「八雲なみの後継者」としての自分を確立しようとしたその方法が、ここに来て初めて、誰にも肯定を得られなくなってしまいます。

その後の同コミュ後半では、にちかはプロデューサーの言葉に明確な反発を返せず、歯切れの悪い反論をするのみで、シーズン4突破コミュでは、「自分には後がないのだから」と吠え続けてきた彼女が、明確に次の舞台、WING本選へ向けての不安を吐露します。

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しかし、彼女にはもう一つ足りないものがありました。”時間”です。

シャニマスのゲームシステム上の都合を無視すれば、今までのアイドルのほとんどは、「WINGはアイドルとして大成する過程の一つでしかない」という描かれ方をします。WING優勝を達成できなくても、アイドルとしての活動は終わらないし、多くのアイドルは敗北後の今後に対して、前向きな展望を述べてコミュを終えます。

しかし、彼女にとっては、本当に”それで最後”でした。姉、七草はづきとの約束があるからです。

だからこそ、WING優勝という目的に対して、にちかも、プロデューサーも、これまでにないほどの執着を見せます。前半のにちかにとっては切望の成就のため、後半のプロデューサーにとっては、にちかが未だ見つけられない”個”を見つける、彼女を”幸せ”にする、その時間を勝ち取るための戦い。

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プロデューサーがアイドルを信じられずに、神にすら祈ってしまったという解釈は、私の中では異なっています。彼は、にちかを信じています。ただ、その場に掛かった重圧が、彼のにちかに対する望みが、今までの何よりも重すぎたのです。

一方にちかは、いつもそばにいたはずの、自らが纏っていたはずの八雲なみという偶像の消失によって、唯一の肯定を失ったまま、初めて”七草にちか”とプロデューサーの二人で、WING本選の大舞台に臨むことになります。

準決勝前、笑顔をトイレで作ってきたのも、プロデューサーからの肯定をしきりに求めたのも、準決勝通過後、「本当に、嬉しいかどうか」わからなくなってしまうのも、決勝前に今までにない恐怖に襲われるのも、すべて「八雲なみ」という”靴”を脱ぎ捨てていく、あるいは”唯一神”から”悩みを抱える一人の人間”となった「八雲なみ」という存在そのものを、自らに、”七草にちか”に取り入れていくその過程であったと、私はそう捉えています。

WING優勝という奇跡にも近い結果、それは凡人の200%を出し切ったからであったか、八雲なみへのオマージュ要素が審査員に評価されたからか、あるいは283プロという事務所の人脈(=我々プレイヤーが持ちうる最強のサポート編成)によるものだったのか、現在の文脈では定かではありません。

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それでも私は、その決勝戦の中に、WING優勝を勝ち取ったそのパフォーマンスの中にこそ、”七草にちか”は現れたのだと信じています。それは彼女の中で揺らいだ「八雲なみ」への絶対的信仰、そこからの脱却の第一歩であり、彼女が初めて笑えた、プロデューサーから確かに「大丈夫」という言葉が贈られた瞬間でもあったから(私はこの男を全面的に信頼している)。

七草にちかの問題は、「八雲なみに近づくため」に行われるべきだった過程が、WING本選、燻り続ける夢に決着をつけるファクターを控えての焦りの結果、概念的な個性を自分自身に付与するための施策を放棄して「八雲なみになる」に変化してしまったことによって引き起こされたものでした。彼女がWINGで勝ち取ったのは、まだ”時間”のみであって、自らの”個”は、これから探していかなければなりません。プロデューサーの「そのための仕事」とは、七草にちかが、七草にちかとして夢を叶えるための、そのための物語の始まりを意味するのだと思います。

今回のにちかWING編のエンディングは、"グッド"でも"バッド"でも、そもそも"エンド"でもない、感謝祭、GRAD、イベコミュというシャニマスが3年間で培った物語を育てる土壌の存在を踏まえ、「WING優勝への道のりを経て、アイドルの持つ課題が(ある程度)解決する」というシャニマスの不文律を真っ向から破壊した、「彼女(SHE)が彼女(SHE)になるための物語」へと繋がる、壮大なクリフハンガーであったという解釈をしています。

七草にちかの道は険しくも、今から二人が向かう道が、彼女自身の救いを求めるための旅路になると、そう願っています。頼むぞ…緋田…天井…高山…

※4/7 12:00 少し追記しました