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『私はなぜ今ここに…』 第16話

やったー!!!帰れる!っていうか、何でもなかったんだ!私!


車はというと買って1年も経たないのに廃車だと聞いた。それほどひどかったのだ。

でも、前半分はぐちゃぐちゃだが、後ろ半分はまったくなんでもない。


保険の方に勿体ないですねーと言うと、たぶんニコイチになるでしょうね、と言っていた。

ニコイチ?なんだそれ?と聞くと、半分半分でくっつけるのだそうだ。

へー、そんな中古車あるんだ? あれですか?トマトになすびくっつけるようなやつ?と聞くとめんどくさかったのか、まぁそんなもんですと言われて終わった。


昔のキカイダーを思い出して、へぇ、人間の指とかがくっつくのは知っていたけれども、車も溶接して半分半分でくっつくんだ、しかもそれが動くんだ、と思うと今の技術ってすごいなと感心するとともに、人間も上半身と下半身で別々の人がくっつくこともきっとできるんだろうなと思うと、気持ち悪くなった。


そして、私はギブスを看護師さんに切ってもらい、丸々とした足がだんだん出てきた。

全部切り終わり、それを投げてもらうとお礼を言い、はーすっきりした!と立ってみてなんでもないことを確認した私はすぐに荷物をまとめ、母と伯母に連絡をし、帰ることとした。


もちろん、車はない。だから、タクシーを呼んで、まずは事務所へ向かった。

事務所へ着き、すたすたと入っていった私を、事務員たちは死ぬほど驚いた顔で見て

ど、ど、どうしたんですか?足は??? と聞いてきた。


なんでもないって。つまり誤診みたい。私、なんでもないもん。

といい、仕事を始めた。


うるさいのが戻ってきた、と思ったのが半分、でも、もう病院へいちいち行かなくてもいいという思いが半分、みんな、なんだかほっとしたやら、やれやれ人騒がせなやつだという気持ちで苦笑いして平常生活に戻った。


しかし、これで終わったわけではない。

まずは、車がないと仕事にならない。以前、教員時代に乗っていたジェミニを事務所用に使えばいいと思い事務所で借りた車庫の中に置きっぱなしにしていたのを思い出した。

まぁ、とりあえずはこれでしのぐか。


そうこうして、通常の生活に戻った私は、時々来る警察と保険の人との話に頭を悩ませていくことになる。


保険の方が、佐々木さん、困ったことになりました、と伝えてきた。


なにがどうしたんですか?と聞くと、相手の方が例の有名な病院に入りまして、と言う。

何が有名なんですか?と聞くと、あそこに入ると入院を長引かせてくれるところなんですよと話してくれた。でも、それってどういうこと?保険目当て?


まぁ、と言葉を濁しながら、「相手の保険の方から連絡が入り、2人が重傷者となりました、2人とも60日の入院です、と言われました」と困惑しながら私に話してきた。


はぁ???60日?なに言ってんのよ!

歩いて帰ってったじゃないのよ!あいつら!

ぶつかった瞬間もあいつら私の車のところに4人でスタスタ歩いてきていろんなこと言ってたのよ?!


しかも、首痛いって言っていたやつ、あいつどうしたのよ。と言うと、

あの方は全治40日間だそうです、と言う。

佐々木さん、相手が悪い。相手はあの有名な〇〇組だそうです。


…くらくらしてきた。

どこに40日もムチウチで入院するやつがいるんだ。

中学校のときの交通事故でも私はそんなに入院なんかしなかったぞ。


なんだか、もう降ってわいたようなまさに災難とはこういうことを言うのだと思った。

新車は廃車だわ、私が犯人みたいな濡れ衣着せられているわ、なんでこんなことに巻き込まれているのだ。一体私が何を悪いことをしたのだ。


警察からも連絡が来た。

そろそろ事情聴取をしたいので、出頭してください。


その出頭という言葉にもいらいらした。

私は何もしていない。何も悪いことはしていないのだ。


指定された日が来て、私は警察に出向いた。

(続く)


佐々木ひとみ

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