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【ハム肉離れ】リハビリや予防は、単に筋肉を強くするだけでいいのか

どうも、さかもとです。
今回は、陸上競技者(特に短距離)の永遠のテーマである「ハムストリングスの肉離れ」について書いていきます。

過去にもYouTubeやnoteで、リハビリについて記載した事があります。そちらも合わせてご覧ください。
YouTube

note


これまで、ハムストリングスの肉離れについては、たくさんの研究がなされていました。
しかし、ハム肉離れの発生率は毎年6.7%上昇しているという報告もあります。

それはなぜなのか。
これまで、「筋の強化」に対する研究が多く、トレーニングやリハビリにおいて、単にハムを強化するだけでは不十分と言われています。

もう少し、ハム肉離れの要因を探ってみよう!というのが今回の引用論文となります。
https://link.springer.com/article/10.1007/s40279-023-01925-x

予防トレーニングや復帰リハビリの引き出しが増えそうな論文です。今回はこちらをまとめていきます。

ハムストリングスの肉離れについて

ハムストリングスに限らず筋の肉離れは、ひずみ(筋のを引き伸ばすストレス)に耐える組織能力を超える、機械的ひずみの結果であると考えられています。要するに、その筋がもつ耐性をストレスが上回った時に起こるわけです。

ハム肉離れにおいてはスプリント中、特に最大速度走行中に起こる事が多いとされます。全体の47%のハム肉離れがスプリント中の怪我です。この数字は陸上だけではなく、様々なスポーツ競技を含んだものですので、陸上競技に限れば、もう少し多くなるかもしれません。

ハムの解剖学とスプリント中の力学

難しいタイトルにしていますが、簡潔に。
ハムストリングスは、股関節と膝関節の両方にまたがる二関節の筋肉であり、それぞれに異なる役割があります。

近位(股関節側)
坐骨結節を介して骨盤に付着し、そこで 大腿二頭筋長頭(外ハム)と半腱様筋(内ハム)が結合した腱を形成します。
半膜様筋および半腱様筋(それぞれ内ハム)とは対照的に、大腿二頭筋長頭(外ハム)は仙結節靱帯への追加の付着を有しており、仙結節靱帯を仙腸関節に直接接続しています。

大腿二頭筋長頭と仙背結節靭帯

遠位(膝関節側)
半膜様筋と半腱様筋が内側脛骨に付着し、内側側副靱帯、半月板と結合しています。大腿二頭筋は遠位方向に下降し、腓骨頭の側面に付着。繊維が外側側副靱帯、腸脛靱帯および周囲の筋膜と混ざり合っています。

スプリント中の力学
加速中、ハムストリング筋群は大きな股関節伸筋トルクを生成し、総推進力の最大 15%に寄与するとされています。
ピーク筋力は、立脚時は体重の 3 ~ 4.2 倍、スイング時は体重の 8 倍の範囲にあります。
大腿二頭筋は立脚初期に内側ハムストリングスよりも大きな活性化を示し、最終スイング中の活性化の大きさは立脚中に生成される水平力に寄与します。
遊脚期では、股関節の急速な屈曲と伸展によって回転に大きな角加速度が発生し、遊脚後期から終期への移行中に膝が伸展状態になります。

論文より

スイングの最終段階では、筋力のピークは体重の 10 倍に達し、すべてのハムストリングの筋肉と腱の長さは約 10% 増加するとされています。
これらのピークの筋肉活動、速度の伸長はすべて、スイング後期と最終スイングの間の移行中に発生します。(画像でいう右2つのフェーズ)

ハム肉離れに関係する6つの要因

この論文では、以下6つの要因(可能性)について検証されています。

  1. オーバーストライド

  2. 骨盤前傾

  3. 腰-骨盤制動(動的活動中に腰椎と骨盤の位置を制御する能力のこと)

  4. 体幹の前傾

  5. 腰部の伸展

  6. 後脚の後げり

この6つについて見ていきましょう。

1)オーバーストライド

オーバーストライドは、足が重心の前で地面に接触することを指します。
オーバーストライドによって引き起こされるブレーキが大きくなると、最高速度でのスプリント中に再加速するためにより大きなハムストリング筋力が必要になる可能性があります。また、オーバーストライドは立脚中の股関節屈筋モーメントを増加させることが示されており、股関節屈曲角度が高いとハムストリングの筋肉の長さも増加します。
これらが、ハムストリングスの負荷になり、肉離れの要因になりうるとされます。
ただ・・・
統計的には、これら 2 つの関係を調査するデータは不足しているようです。

オーバーストライド=肉離れの原因
とまでは言い切れないのが現状です。しかし、走フォームの分析をしてオーバーストライドの有無は確認しておいた方がいいのかなと感じます。

2)骨盤前傾

骨盤前傾は坐骨結節を後方および上方向に回転させ、ハムストリングを長くし、組織の緊張を増加させます。また、近位ハムストリングス股関節屈曲に伴って張力が増加します。
と言うことは、股関節が屈曲するスイング中および/または立脚初期に骨盤前傾が制御されない、または増加するとハムストリング近位部の緊張が増加し、肉離れのリスクが増加する可能性があります。
また、骨盤前傾が半腱様筋の張力を13%、半膜様筋の26%、大腿二頭筋の張力を31.5%増加させるとの報告もあり、骨盤前傾はおそらくハム肉離れリスクに影響を与える可能性のある、修正可能な機械的要因を表していると考えられます。

3)腰-骨盤制動

前述した通り、腰-骨盤制動とは動的活動中に腰椎と骨盤の位置を制御する能力のことを指します。

前述した通り、大腿二頭筋長頭(外ハム)は仙結節靱帯を介して仙腸関節に接続します。腰-骨盤制御は当然、仙腸関節を介してハムストリングスの緊張に関与します。
そしてその骨盤には、さまざまな筋が付着しており、それらの影響により骨盤位置は変化します。

Chunmanov らの研究では、体幹と骨盤にまたがる筋肉がランニング中の大腿二頭筋長頭の伸長に及ぼす影響を調査しました。反対側の腸腰筋は大腿二頭筋長頭の伸長を25 mm以上増加させることが観察されました、と報告しています。これは、腸腰筋が骨盤の前方回転を加速し、リード脚ハムストリングの近位付着部位を長くすることで説明されると考えられます。
Schuermansらは、ハム肉離れをしたサッカー選手において、スイングフェーズ中の大臀筋、脊柱起立筋、および内腹斜筋および外腹斜筋の活動が低下していることを報告。さらに東原らは、ハム肉離れの既往歴を持つ個人の間では、大殿筋と脊柱起立筋の活動の開始が遅れることを報告した。また、体幹の過度の回転や側屈により体幹の筋肉の長さと張力の関係が変化し、骨盤とSIJを安定させる能力が低下する可能性があることが示唆されています。

↑これらが骨盤を介したハムへの影響を示すものです。

対照的に、大殿筋、大内転筋、内腹斜筋、外腹斜筋はすべて、骨盤の前方回転力に抵抗する能力により、大腿二頭筋長頭にかかる伸長ストレスを軽減することが観察されました。

影響を及ぼすものと、それに抵抗するものを理解することが、リハビリテーションや予防トレーニングの考えに大きなヒントになるなと思います。

4)体幹の前傾

東原らは、最高速度でランニング中に前傾を増やすと、立脚期全体にわたってハムストリングの長さが大幅に増加することを観察しましたと報告。
また、体幹の前傾が大きくなると重心の前方変位が生じ、股関節中心と地面反力ベクトルの間の距離が増加します。これにより、股関節屈筋モーメントが増加し、それによってハムストリングの緊張が増加するとも。さらに、重心の前方移動は、重心と足の接地位置の間の前後距離のバランスをとるために必要な代償的なオーバーストライドを引き起こす可能性があるようです。

ただ、体幹の前傾がハムの伸長に関与することは待ちがないが、イコール肉離れにつながるかはまだまだ調査が必要とのこと。

5)腰部伸展

現時点では、腰部伸展とハム肉離れの間の直接的な因果関係を裏付ける証拠は限られています。

これは、骨盤の前傾や体幹の前傾と関連して起こるものでもあり、腰部伸展を単体で見る必要はない?かもしれません。

6)後脚の後げり

バックサイドメカニズムとも言われ、短距離走中に重心の後ろで起こる下肢の動きの程度を指します。

論文より

この研究には限界もあるようで。
まず、バックサイドメカニズムと肉離れを研究したものはほとんどなく、またバックサイドメカニズムの評価を定量化する事も難しいとのこと。

後方脚の運動で言うと、トリプルエクステンション(股関節、膝関節、足関節の伸展)は最大速度スプリント走行中、ハムストリングのひずみに影響を与える可能性のある技術的な障害と見なされているという報告もあります。
→スプリントとトリプルエクステンションは、むしろ友達関係にあるものと理解されていることも多いですよね。

トリプルエクステンションは、アスリートがピーク地上反動力発生のポイントの後に地面を押し続ける非効果的な力生産戦略を示すと考えられています。
Yuらは、短距離走中の筋肉-腱運動学を調査し、彼らは中期から後期のスタンスの間に発生するハムストリングの緊張の追加ポイントを特定し、後期のスタンスでの急速な膝伸展がハムストリング組織の緊張を増加させ、潜在的に傷害リスクに影響を与える可能性があると報告している。

まとめ

いかがだったでしょうか。
個人的に、結構面白いなと思った論文でした。
それぞれ、何となくリスクになりうるだろうとは予想していたものの、こうやってレビューしてくれると分かりやすく腑に落ちますね。
ハムの肉離れについては、単にハムを強化するだけでは予防も含めて難しいのだと改めて感じます。

ハムに対するストレスを増大させる、多因子を理解し、評価してトレーニング指導していくことが必要だと改めて考えさせられました。

ハム肉離れのリハビリだけでなく、冬季練習・トレーニングの1つとして、今回の記事がお役に立てば幸いです。

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