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【推しの子】は至高のメディアミックスである

皆さん、2023年春クールアニメ楽しんでいらっしゃいますでしょうか。
今期はまだ始まったばかりですが、圧倒的な話題性で覇権だとささやかれているのがそう、【推しの子】です。

この推しの子、原作やアニメがそれぞれめちゃくちゃ面白いのは言うまでもないのですが(もちろん好き嫌いはあるでしょうが)、それ以上に感心したのが、

メディアミックスがあまりにもうますぎる!!!

ということです。この文章は【推しの子】のメディアミックス戦略について注目して、このコンテンツが生み出している世界観に迫っていくものになります。

※それぞれのコンテンツのネタバレを多分に含みます。内容に触れる際は注意書きを行うほか、該当するコンテンツへの誘導を必ず設けますので、自衛をお願いします。

※追記
メディアミックスの新展開として、実写化の存在が公表されました。実物を見るかについては未定です。見た場合は批評を追記するか新規記事でかきます。

こんな記事をわざわざ読むディープなオタクには関係ない話だとは思いますが、くれぐれも下手な炎上等に加担しないように。
推しの子から、リアリティーショー編の黒川あかねからきちんと作品のメッセージを受け取ってください。


1 そもそもメディアミックスってなんだよ

1-1 メディアミックスの定義

「メディアミックス」という単語そのものは、ある程度オタク文化に浸かっていると聞いたことはあると思います。ただ、実際のところふんわりとした理解の方がいらっしゃると思うので、メディアミックス戦略を語るにあたって、まずはその定義を行いたいと思います。詳しい人は1章を丸ごと飛ばして結構です。まず、Wikipediaの定義を確認してみましょう。

メディアミックス(media mix)は、広告用語で、商品を広告・CMする際に特性の異なる複数のメディアを組み合わせることにより、各メディア間の補完と相乗効果によって認知度を高め購入意向を喚起する手法。また、そこから転じたマーケティング用語で、特に小説映画漫画アニメコンピュータゲームの分野において特定の娯楽商品(商業作品)が一定の市場を持ったり、あるいは持つことが期待されるとき、元の商品から派生した商品を幾種類の娯楽メディアを通して多数製作することでファンサービスと商品販促を拡充する手法を指す。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%A2%E3%83%9F%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9

長ったらしく書いてありますが、要約すれば
「小説や漫画の映画化、アニメ化といった別メディアへの移植」
となります。あの○○がついに映画化!みたいなやつです。
今回とりあげる推しの子の場合は、元は漫画として展開してた原作をアニメ化したことが当たります。

1-2 メディアミックス戦略ってどうしてやるの?

基本的にこういった文脈のそれはコンテンツの躍進としてめでたく扱われることが多いです。とはいえ改めてアニメや映画に落とし込むには多額のお金がかかります。人も必要です。どうしてそんなことをするのでしょうか。

あぁ、わかります。わかります。そんなの宣伝のために決まってるだろと思っているんでしょう。そうです。正解だと思います。ただ、それだと少し解像度が荒いと私は考えるのです。メディアミックスを行うことによるメリットは、いくつかの種類に分類にされると思われます。それは下記の3点です。

・今までコンテンツを知らなかった層に対するアプローチ
・経済圏の拡大
・表現の幅が大きく広がる

順に説明していきましょう。
・今までコンテンツを知らなかった層に対するアプローチ
これは一番想像しやすいと思います。例えば小説が映画化するとき、小説だと触れなかったけど映画だと見てみる、といった人はたくさんいます。

読書は結構ハードルが高めですからね

作品については知らないけど、好きな俳優の○○がいるから見てみようだとか。複数のメディアを解することで、様々な層にコンテンツを届けるアプローチを行うことができます。
もちろん、複数のメディアで展開されるそれが”面白い”ことが前提なんですが……。屍に思いを馳せても仕方がないので次に行きます。

・経済圏の拡大
こちらはよりマーケティング的です。映像化などをすることによって、版権を利用した経済圏を拡大させることができます。とどのつまりグッズ化とかですよね。上記の母数が拡大すればするほどこれもやりやすくなりますから、大人気コンテンツになるためには避けて通れない道でしょう。

アクリルキーホルダーは定番ですよね。
著作権もあるのでいらすとやですが。いつ推しの子の画像出すねんこの記事

・表現の幅が大きく広がる
これがオタクたちがメディアミックスを喜ぶ理由です。
よく聞く言葉で言えば、「動いている○○がみたい!」です。

そうです。横槍メンゴ先生のイラストは確かにきれいで見ごたえのあるものです。ただ、やっぱり動いたり話したりしているところもみたいじゃないですか。人の性です。好きな漫画のあの子がぬるぬると動いて声がついている。こんなにうれしいことはないですよね。
なんと推しの子ではわざわざOPEDのテロップ無し版を円盤の特典ではなくyoutubeで公開されています。
4/21現在でこの動画の再生数は380万回ほど。動画の公開が4/19であることを考えると、凄まじい伸びです。
まさに「動いてる星野アイが見たい!」に真摯に答えてくれているんです。

もう少し表現の抽象度を上げていきましょう。各メディア、小説や漫画、アニメに映画、ボイスドラマなど。それぞれには当然できることとできないことがあります。
先ほど挙げた例でいえば漫画ではキャラクターをその場で物理に動かす表現を動かすことは天地がひっくり返ってもできない。でもその代わりに漫画にしかできない表現も勿論あります。開き絵での見せ場などは漫画ならではの表現の筆頭候補ではないでしょうか。

将来ARやVRがさらに発達することで、新しい表現が生まれるかもしれません。

一つの物語を描くにあたっても、メディアが違えば表現の仕方、受け取り方、アプローチはまるっきり大きく変わります。
ある意味当然ではあるんですが、コンテンツを消費するにあたってはぜひ頭に入れておきたい要素です。
もしそれぞれのメディアの特性を最大限に生かした異なるコンテンツがメディアミックスとして登場するのであれば、それはとても理想的な状態と言えるでしょう。それぞれの良さを使って同じお話でも異なる表現ができるのですから。

ここまで、メディアミックスを行う主なメリットを説明してきました。
では、素晴らしいメディアミックスは、この上記3つを高いレベルで満たしているもの、といえるのではないでしょうか。
つまり、

・今まで知らなかった層にアプローチができていて
・それぞれのメディアでの表現に調和があり、かつそれぞれの個性も発揮されている状態

この状態になることがメディアミックス戦略を行う上で理想的な状態であり、どうせ行うのであればこの状態は目指すべきでしょう。
さて、前置きが長くなりました。私が何が言いたいのか。
それは、

推しの子のアニメ化は上記がアニメ史に残る高レベルで達成されている。

この一点です。

2 星野アイは最強の偶像アイドルである

2-1 星野アイを偶像アイドルにするために

推しの子の根幹には星野アイがいる。彼女が史上最強のアイドルとして君臨していた。その経緯があってこその物語であり、構成である。
当然だが、推しの子運営陣は、この要素を本当に、怖いほどに大切にしている。各メディアでの表現、広報、そのすべてが星野アイを星野アイとして息を吹き込むために動いていると過言でない。
その例を一つずつ紹介していこう。まずは渋谷の広告である。

一般的なマーケティングの話をしよう。アニメ作品の広告を東京で出すのであれば、渋谷よりも最適な立地がある。そう、秋葉原だ。
秋葉原駅の電気街改札を一歩出れば、アイドルやアニメのこのような大きな広告しか見当たらない。当然だ。広告が刺さるであろうターゲット層がそこに一番いそうなのだから。そして推しの子もあまりその例に漏れないだろう。ただ、この広告は渋谷に掲示されているのだ。
何故か? 当然、「星野アイがトップアイドルだから」だ。そこら辺のコンカフェ嬢でもなければ地下アイドルでもない。
トップアイドルは、オタクの垣根を越えて愛される存在だ。だから紅白歌合戦でパフォーマンスするし、気持ち悪いものとして扱われない。
だから、彼女が採用される広告は一等地での掲示でなければありえない。

次にあげる例は、アニメ一話だ。(内容ネタバレあり。各種配信サービスで見れるので、見てないままここまで読むやつはいないといないが今すぐ見ろ。Dアニメストアなら500円だ)
推しの子のアニメ一話はかなり特殊な形態をとっている。基本的にアニメは一話30分。ただ推しの子はわざわざ90分の尺を取っている。ただ、これについては明確に必要性がある。
何故か? あの内容をすべて進めないと、推しの子の世界における
「最強の偶像アイドル星野アイ」を描けないからだ。

内容は原作1巻の内容をほぼそのままアニメに落とし込んだものである。星野アイが妊娠して出産するところから、ドームライブの夢を実現するすんでのところでなくなってしまうところまで。どこかで区切ってしまうと、彼女が、そして物語が誤解されてしまう可能性が発生する。
一般的な構成なら、おそらく一話段階で吾郎が殺害されるまで、二話でアクアとルビーが転生した説明、三話で星野アイが亡くなるところまでという構成が予想しやすい。ただ、もしこの仮定の二話で安易な転生ものと判断し離脱してしまった場合、その消費者は星野アイの本質に迫ることが叶わなくなってしまう。それは、あまりにも不幸なことなのだ。

星野アイが、ドームライブの夢をつかみかけるその過程は全てまとめて消化する必要がある。それは彼女が彼女として生きた証の全てであり、推しの子の世界において大きな歴史の一つであるからだ。


2-2 星野アイが最強の偶像アイドルであることを描く

アニメ推しの子を語るにあたって外せない要素がある。
OP楽曲である YOASOBIの「アイドル」だ。

4/13に公開されたこのMVは、4/21現在の再生数は2800万回をたたき出している。多くの人がこの楽曲に魅了されている(当然私もその一人だ。今日の作業中はずっとアイドルを聞いている)証左であるが、その魅力は何なのだろう。
私はひとえに、星野アイというトップアイドルの魅力を無駄なく完璧といって差し支えない形で表現されているところだと思っている。

まず特異なところとして、このMVの作画にはアニメ制作陣がアサインされていることである。もちろんアニメOP楽曲は、そのアニメをモチーフにして作成される。ただ、それはそれとしてその曲はアーティストの作品の一つなのだ。完全に原作側に寄せてしまうわけにはいかない。
だからこそ、アニメの映像などを使ったOPと、それとは別にそのアーティストの作品として表現されるMVなどに分かれて表現されることが一般的である。
ただ、この楽曲はその暗黙の了解をぶち抜いた。アニメの作画陣がMVの絵コンテに携わっている。それこそ、アニメの一幕と勘違いされても全くおかしくない異常なクオリティで。
何故こんなことができるのか?
それはこの「アイドル」がまさに星野アイそのものを表現しつくしているからである。
星野アイは、当然アニメ制作側によって動きと命が吹き込まれる。星野アイを描くのであれば、その映像以外を”使う理由がない”。
理屈は簡単である。ただ、商業というフィールドでこういった形の作品が生まれること自体が奇跡だと断言できる。少なくとも私は今までの人生でここまでの完成度で各メディアの表現が融合したコンテンツに出会ったことがない。間違いなく歴史の分岐点だ。だからこそこうして筆を執っている。

また、歌詞も素晴らしい。特に私が好きなところはCメロの歌詞だ。

得意の笑顔で沸かすメディア
隠しきるこの秘密だけは
愛してるって嘘で積むキャリア
これこそ私なりの愛だ

流れる汗も綺麗なアクア
ルビーを隠したこの瞼
歌い踊り舞う私はマリア
そう嘘はとびきりの愛だ

YOASOBI「アイドル」 Official Music Video

原作のセリフである「私にとって嘘は愛」、そして双子の名前であるアクアとルビー。これらの要素をちりばめた上で美しく韻が踏まれている。
特に自分を”マリア”だと形容する点に痺れる。
そう、聖母マリア。偶像の中の偶像、その頂点である。
こんな形容は、数あるアイドルキャラクターの中でも、星野アイでなければ許されないだろう。
彼女は、誰もが認める偶像アイドルなのだから。

上記の「アイドル」には原作がある。原作者の赤坂アカ先生の書き下ろし小説である『45510』である。漫画内ではアイのスマートフォンのパスワードとして登場する上記の数字だが、その意味が明かされている。
期間限定公開だ。読んでいない奴は今すぐ読め。これより後ろは小説の内容のネタバレをするからな、いいな。







ネタバレ保護空白終わり。
内容としては、星野アイと同じアイドルグループ「B小町」で活動していたメンバーのアイへの感情の独白である。
最強の偶像アイドルである星野アイは、本来は戦友、またはライバルであるはずのメンバーにすら

誰よりも強い君以外は認めない という偶像を見せている。

そして、この内容はおそらく小説でないと表現できない。
一人の独白という形式が視聴に耐えうるのは小説の良さである。映像だとおそらく間延びしてしまう。ボイスドラマでもいいかもしれないが、細かい情景描写は小説には劣るだろう。

3 まとめ

長々と書いたが、広報、アニメ本編、楽曲、MV、そしてスピンオフ小説のこれらすべてがそれぞれのメディアの個性を最大限生かした上で一貫して

「星野アイが最強の偶像アイドルである」

ただこの一点を表現する、実現するために仕組まれ、計算され、製作されている。
正直感服だ。もちろんコンテンツを表現する際一貫性があったほうが良いことが多い。ただ、【推しの子】のアニメ化におけるメディアミックス戦略におけるそれは、もはや異常と表現していいレベルだと思う。

それぞれが星野アイがアイドルとして生きた世界を描くことで、どんなメディアから推しの子を知ったとしてもきっと多くの人が星野アイに、そして推しの子に魅了されるのだろう。YOASOBIのファンなだけだった人、毎クールごとにアニメをとりあえず新規視聴する人、そして原作ファン。

誰もが信じ崇めてる まさに最強で無敵のアイドル

それが星野アイだ。


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