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初心者による初心者のためのラップリリックライティングメソッド


とりばんわ!SHOWROOM公式バーチャルライバーのとりえっすよ! VNOS Advent Calender 2019の22日目の記事としてこれを書かせていただいています。IT技術を軸としたグループであるVNOSですが、ノンジャンルなアドベントカレンダーということで、意外性のあるテーマとして「ラップのリリックの書き方」を選んでみました。

明日はなもなきちゃんの「VR技術がもたらすポストトゥルース時代とどう向き合っていくか?」の予定です。

始めに

2019年の4月ごろから7月にかけ、バーチャルラッパーYouTuberのYOSHIさん(@YOSHIVTUBERAP)の主催するマイクリレー企画「ビギナーズマイクリレー」に参加した。

ラップは初挑戦だったが、自分なりの仮説を持って臨むことで、悪くないリリックを書けたと思う。添削を担当してくれた月島かおる先輩(@kaoru_tsuki)も、そんなに褒めていいのかしらと思うほどに褒めてくれた。自分と同じく初心者の方の参考のために、リリックを書くのに当たって持っていた仮説や考えたことをこの記事で共有したいと思う。

ビギナーズマイクリレーの企画動画は記事の末尾に埋め込んであるのでそちらも是非視聴してほしい。

安直にならないように気をつける

初心者の書くリリックというものは安直さとの戦いなのではないかと思う。

日本語というのは助動詞が最後に来るようになっている。これは英語との大きな違いだ。語尾に来る助動詞といえばです、ます、だよ、〜たい、〜ないいうようなものだ。このような助動詞で語尾を揃えれば音律を揃えることができるが、これをやりすぎるとあまりにも安易な印象になってしまう。

くまのプー太郎というテレビアニメのテーマソングで「たいたいづくし」というものがある。歌詞を引用する。

飲みたい食べたい騒ぎたい
こいつは春からおめでたい
ご近所総出で祝いたい
とことん羽目をば外したい

どうだろうか。たいたいづくしという曲はあくまでコミカルな曲なのでこれでよいと思うが、ラップとしてはあまりにも安直で格好よくはない。第一にこのようにならないように気を付けた。

ラップは俳句に似ている、かも

「プレバト!!」というバラエティ番組を見たことがある。芸能人に芸事をやらせて才能があるかを判定する番組ということらしいが、筆者の記憶に残っているのはもっぱら俳句を添削してもらうコーナーだった。

リリックを書くに当たって、ラップは俳句のようなものだと捉えることにした。曲全体の中で自分が担当するのが8小節という短いパートであることが大きい。いずれにせよリリックは一般的には容量に対して適度な情報量が詰め込まれていることが望ましい。

情報量とは、予測のつかなさ。

情報量とは何か?情報量とは意外性である。チェーホフの銃のように、銃が登場したら発砲されなければいけないというテクニックもあるが、創作には意外性というものが必要であり、チェーホフの銃とは逆のテクニックも必要である。

唐突だがここで確率と情報科学の話をさせてほしい。ある2つの事象が発生する可能性があるとき、それぞれが発生する確率は50%の場合に最も情報量が大きいという法則がある。どちらかが100%の確率で発生する場合、なんらかの情報を表現することができず、情報量としてはゼロである。その中間で、どちらかの発生する確率75%であった時、フィフティフィフティよりも情報量は減り、50%の場合と100%の場合の中間となる。

言い方を変えれば、どちらが出るか全く予測がつかない場合が、最も情報量が大きいのである。

安直ではないリリックを書くためには、聴く人が次に何を言うか読めない意外な展開を適度に用意してやるのが重要かと思う。

余談ではあるが、「選択肢の候補の数を1/2に絞り込むことのできる質問」をすることで、アキネイターがキャラクターの特定に有効な情報を最大効率で集めることができるのもこの法則の応用である。

出現頻度と情報量の関係、情報科学で言うエントロピーの定義については以下の書籍にてわかりやすく解説されているので、ぜひ一読をお勧めする。コンピュータの原理が理解できる上にラップにも役立つ。マジですごい本。

意外性、安直さの対極にあるもの

情報量の多い写真というものがある。こう呼ばれるのは「ミシンを持ったタキシードの青年と横転するバス」とか「天地魔闘の構えをする女子中学生と逃げる犬」といった、一見一枚の写真に収まっていそうにないモチーフが同時に写っている意外性のある写真だ。この呼び方は情報量というものの本質を雄弁に物語っている。

言葉においては、先に出た言葉から連想できない言葉が続くのが、情報量の多いフレーズと言える。

「のに」のアプローチ

ここで安直なフレーズのつながりを考えてみよう。例えば「遊んだ」ら「楽しいな」という歌詞。先に出てくる言葉から続く言葉が容易に想像できる。では逆に意外性のある歌詞を考えてみよう。「遊んだ」のに「楽しくない」だったらどうだろうか。これだけドラマがある。なんならこの後に「それは先週フラれた君のことが脳裏に浮かぶから」とでも続ければ上等である。

試しにやってみよう。

「真夏のビーチ眩しい太陽」というフレーズからリリックを作ろうとしたとする。この明るくてギラギラしたところに真逆のものをつなげてみよう。喪失をテーマにして、

「思い出す君の眩しい笑顔/どうしても晴れない俺の心/なぜなら君はいないからもう」

というのはどうだろうか?安直でない例を作ろうとした結果安直な韻の踏み方だったり正反対すぎてわざとらしい例になってしまったかもしれないが、ともかくエモくて意外性のある内容にはなったのではないだろうか。

「まるで」のアプローチ

遊ぶに対して楽しくないをぶつける「のに」のアプローチとは別に、ラップでよく使われるアプローチとして「まるで」のアプローチがある。直喩である。文脈と関係ない単語を持ってくることにより意外性を持たせることができる。これがラップにおいて多用されるのは、全く関係のない単語を無理矢理にでもこじつけて韻を踏むのに利用することができるかからだろう。

例えば「透き通った瞳まるでサンゴ礁 片手に参考書」というようなものだ、瞳、サンゴ礁、参考書はそぞれ一見関係のない単語のように見えるが、参考書と踏んでいる言葉として「サンゴ礁」を思いついた時、瞳の直喩であることにしてしまって韻を踏むことができ、同時に瞳がどのように美しいかを形容することで情報量を増やし、かつ予想しない語彙を使うことによる意外性を演出することに成功している。

物量作戦

今回初めてリリックを書くにあたって、思い付きでなく初心者なりにクオリティの高いものを作るために、物量作戦を取ることにした。

これは「10回リリックを書いたら一度くらい良いものができるなら、10回書いて9回捨ててしまえばよい」といった発想で、敢えて説明の必要はないだろう。

今回リリックを書くにあたって、Evernoteを使ってアイデアを書き留めたり推敲したりした。最終的なリリックは122文字となったが、ノートの方は1666文字のボリュームになった。

実は動画で聞くことにできるリリックに決定するに当たって、最初に作ったものを一度捨てて作り直している。今思えばかおる先輩には悪いことをしたと思うが……

言い方を変えればプロトタイプを実際に作ってみて、うまくいきそうなものを採用するということでもある。最近プロトタイプを作る意義について書かれた秀逸なnote記事を読んだので、気になる人はぜひそちらも読んでみて欲しい。

おわりに

末筆ではあるが、筆者が参加したビギナーズマイクリレーの動画を埋め込んでおく。筆者以外の参加者も同じく初心者のはずだがかなりレベルが高く、リリックとフロウの両面で舌を巻かされたので、ぜひ一聴をお願いしたい。

またここにはリンクしないが、未来組の他にも愛組、月組、白組があり、どれも聴きごたえのある内容になっているのでそちらもぜひ。

P.S. このマイクリレーについてもっと読みたい人へ

なお同じ未来組の中で筆者が一押しするのは小夜月トキト(@kitokito_Tokito)さんのラップだ。リズミカルで緩急のメリハリが効いていて、とても聞いて心地よい。ぜひチェックしていただきたい。トキトさんはこのラップを書いた時のことをFANBOXの記事にしているのでそちらを読んでみるのもいいだろう。


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