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「本当は怖い美少女受肉」に思ったこと

バ美肉で自我は壊れるか

事の発端は、今はやりの美少女受肉、あんまり考え無しにやると危ないんじゃないか?と問題提起したなもなきさんのツイート。

これが軽くバズり、現在では6500以上のRT、5000近いfavsがついている。その日のうちになもなきさん本人によってこのトピックについての生放送が行われ、言うまでもなく迷わず視聴した。この生放送とくだんのツイートに触発されて色々考えたことがあるので書き留めておこうと思う。

昨今、VTuberファンの界隈を賑わせている「バーチャル美少女受肉」略して「バ美肉」はもともとは「自分の創作キャラクターであるところの美少女キャラクターにボイスチェンジャーを使って声を当てる」ことを指していた。ただし、現在ではこの言葉はいくら拡大解釈が進んでいて、なもなきさんのツイートでもその例に漏れず、どちらかと言えば「VR内の3Dアバターとボイスチェンジャーの併用による没入感の高い美少女化」を指しているようだ。

昨今、ねこますさんや魔王マグロナさんをはじめ、美少女のアバターをまとってネット上で活動する人々は枚挙にいとまがない。ちなみに、なもなきさん自身も美少女アバターとボイスチェンジャーを使った生放送を行っている。そういった活動を行うことで自我が壊れるということなんて、あるのだろうか?もしそうだとしたら、正気を保つために美少女アバターを着ることをやめるべきだろうか?

とりえの場合

筆者は2018年の7月の終わりに最初の動画をアップロードし、バーチャルYouTuberとしての活動を開始し、現在で活動歴2ヶ月になる。アバターはいわゆるケモショタのキャラクターを新規にデザインしたものを採用した。美少女でこそ無いものの、人ならざるもののアバターを着て活動しているわけだから、「美少女アバターによる自我の崩壊」なる現象が本当に起こりうるならそのリスクとは無縁ではないだろう。

筆者は幼稚園児の頃に「自分が女の子になって男の子を誘惑してみたい」というアブノーマルな願望を抱いて以来、中学時代にはアニメの美少女に憧れ過ぎた結果仕草がオカマっぽいと言われて石を投げられたりしたりして持て余す程の承認欲求に振り回されて来た。

筆者はもともとはあまり自己肯定感の高い方ではなく……というと控えめな言い方で、昔は自分のことが全く好きになれなかった。そのような背景を持っていてかつVTuberになることができる以上、バ美肉によるアイデンティティの崩壊を起こしてしまってもおかしくない境遇にいると言える。以下のなもなきさんのツイートを見ると、まさに「現実の自分を否定」していて、「バーチャルで可愛い存在になろう」としている点で自分はドンピシャで「危ない人」に該当する。

しかし意外にも、現在の自分のあり方はアイデンティティ崩壊から十分なマージンをとることができているように思える。それは前述の「女の子になって男の子を誘惑したい」という願望を抱いたことがあり、これだけバーチャルYouTuberの文化にどっぷりハマり、美少女アバターが当然のVRChatも経験しているにもかかわらず美少女アバターを使っていないところに表れている……ような気がする。

「バーチャル美少女化は危ないかもしれない」という不確かな前提でずいぶん手前味噌な話をしてしまっているが、ともかく話を続けるとしよう。なもなき氏の理論が間違ってなければ、おそらく筆者のアバターとの付き合い方もあながち間違っていないはずなのだ。

考えてみれば自分はここ15年ほどずっと、「自分のジェンダー」であるとか「理想の姿で生まれてこなかったこと」という問題との付き合い方を模索してきていて、それが「コヨーテとしてのとりえ」であるとか「VRChatのアバター」にちゃんとフィードバックされた結果なのではないかと勝手に思っている。

理想を追い求めないということ

現在VTuber活動に使用しているアバターは、もともと「Live2Dアバターを自分でも作ってみよう」という発想で作ったものだった。筆者はいわゆるケモナーで、だいたい高校生くらいの頃から「ケモショタになりたい」だの「可愛い獣人になって可愛がられたい」といった強い願望を抱いてはいた。しかし今回のアバターを制作するにあたり、「理想の自分」を作ろうというスタンスではなく、安直に手癖で描いたものを採用した。コヨーテというモチーフを選んだのはとある人から「動物に例えたらコヨーテっぽいよね」と言われたのが理由で、自分とかけはなれた理想の姿を追い求めるのではなく、生まれつき自分が持っている特色をできるだけ愛してもらおういう考えだ。コヨーテというのはおそらく「自分の好きな動物」「自分のなりたい動物」という基準では選択しなかったモチーフだったと思う。

VRChat用のアバターを作成した際も、あまり自分のイメージから離れないようにデザインした。やはり「自分の理想の姿」というような要素は盛り込まずに、現実の自分に近づけてタレ目のデザインにし、女性アバターではなく中性的な男性としてデザインした。年齢の面でもあまり子供らしくなりすぎずに、大人とも子供とも取れるような見た目となった。SFやミリタリー、多少フェチズム的なもので言えばボディラインの出るスーツと、趣味を詰め込んだものにはしたが、やはり「なりたい自分」や「あるべき自分の姿」といったものにはしなかった。

VRChatアバターを作成した時もLive2Dモデルを作成した時も「自分に似合うアバターを作ろう」という意識があった。それは「できるだけ現実の自分を肯定しつつ、VRやオンラインのコミュニティでも肯定されよう」という方針だった。

自己承認欲求に悩まされた人生

自分がいつ頃から自分のアイデンティティについて悩んでいたのか、筆者は思い出すことができない。思春期も、自分が何に悩んでいるのか言語化することができないまま日々を過ごしていた。大学生になっても愛されることに対する渇望に悩まされていた。いわゆる「承認欲求」という奴だ。そこから逃れる一つの転機となったは3,4年ほど前に読んだ一冊の本だった。

当時僕には恋人がいたが、こじらせた自己承認欲求の大きさから、燃え上がるようなロマンスと大喧嘩を繰り返すジェットコースターのような恋愛をしていた。ある時その恋人と破滅的な喧嘩をして、なぜかその足で書店へ行った。その時一番自分に必要そう本として目についた二村ヒトシの「恋とセックスで幸せになる秘密」を手に取った。まさに自分の人生に必要な本だった。なお、新版のタイトルは『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』というものになっているようだ。

それをきっかけに「嫌われる勇気」であるとか「本当の勇気は弱さを認めること」であるとか、似たテーマの本を何冊か読んだ。当然、本を読んだところで人のあり方や人間関係がすぐに変わるはずもなく、程なくしてその恋人とは別れてしまったが。


これらの本はアイデンティティーや自分の価値についての考え方を確実に変えた。これらの本を読んでから「自分自身を受容しなければいけない」「自分自身を受容していい」というように考えるようになった。僕がアバターを作成するときに「現実の自分を肯定すること」を前提にしているのは、それらの書籍によるところが大きいと思う。

なもなき氏がこのように言っているように、美少女受肉であれ、ケモノ受肉であれ、現実世界の自分を受容・肯定した上で実行するのが安全かつ幸せなのだろうと筆者は思う。

結局、バ美肉で自我は壊れるか?

これを書く途中に冒頭のなもなき氏のツイートのメンションをたどってみたところ「実際に人格が壊れる経験をした」「自我は壊れたが支えてくれる人が居るからなんとかなっている」「人格が壊れて再構築されたのが今心にいる自分です」などなど、実際になもなき氏が警鐘を鳴らしているような現象の体験談を見ることができた。身も蓋もない結論だが、そういう症状が発生してしまうというケースは実際にあるようだ。

とはいえ、言うまでもなく「バ美肉で必ず精神が壊れる」わけでも「絶対に安全」というわけでもない。何よりも大切なのは、あるがままの自分を受け入れることであると筆者は思う。今回問題になった現象が起きる前提条件や傾向について、あるいは回避方法についての知見が今後蓄積されていくことに期待したい。

この騒動の発端から数日が経ち、なもなき氏は以下のようにツイートしている。

一旦は「美少女受肉で自身が壊れる」というトピックのバズりが一段落ついたことを象徴するように思えるツイートである。どちらにせよ、もしあなたがいわゆる「バーチャル」で何者かになりきろうとしていて、自分自身を受容することができていないのならば、まずありのままの自分を受け入れるということを考えてみて欲しい。

そうではなく、あなたにバーチャルYouTuberやVRChatのようなことをする予定がなかったとしても、過去の筆者のように「自分ではない素晴らしい完璧な誰か」を夢想するような傾向があるのなら、本当にそれで自分が救われるのか立ち止まって考えて欲しい。自分を受容することができればバーチャルであろうとリアルであろうと、ハッピーに日々を送れるはずだ。

散々遠回りした挙げ句、美少女受肉とはずいぶん関係のなさそうな結論となってしまったが、このあたりで筆を置くことにする。きっと面白がって読んでくれる人は一人は居ると信じてはいるものの、このような怪文書を最後まで読んでくれたあなたに感謝する。

バーチャルの周辺で議論は続く

ちなみにこの記事で引用したなもなき氏のツイートの間に、NHKのノーベル賞解説サイトにキズナアイが採用されたことがやり玉に上げられたり、フェミニストを自称する某氏がキズナアイのアバターを借りて主張を行ったりという事件が発生して、もかなりのバズりを見せていた。この件に関して言及した一連のツイートが思いの外好評だったので、そちらも機会があればnoteにまとめたいと思う。

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