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コレクターの覚悟

   『村上T』村上春樹(マガジンハウス)

 図書館で予約をして、しばらく待って借りました。
 図書館の予約って、ちょっと話題になった本には、100人200人と予約が付きますね。
 そんな人気本の場合、図書館も何冊か購入していましょうから、例えば100人待ちでもそのまま100番目ではないでしょうが、でもやはり借りるまでに数か月はかかりそうです。

 知人に図書館に勤めている人がいるのですが、どこの世界もよく似たものでしょうが、図書館にもすごい「ヘビーユーザー」がいらっしゃるということでした。

 いろいろ面白い話も聞きましたが、一つだけ紹介しますと、その図書館は年末になると、その期間だけ特別にひとり100冊迄貸し出しを許可するそうであります。(しかしこの一人貸し出し100冊迄というのも、大概と言えば大概ですよねー。)

 とにかくそうすると、必ず何人かは100冊ぴったり借りる人がいる、と。
 ……図書館で100冊本を借りた人のお部屋の風景って、一体どんな感じなんでしょーねー。ちょっと興味があります。

 ともあれ、そんな風にして、「やっと」借りられた本書であります。
 楽しみにワクワクして読み始めました。すると、前書きにこんなことが書いてありました。

 ものを集めるということにそれほど興味があるわけではないのだけれど、いろんなものがついつい「集まってしまう」というのが、僕の人生のひとつのモチーフであるみたいだ。聴ききれないほどの量のLPレコードやら、この先読み返すこともたぶんないであろう本やら、雑誌の雑ぱくな切り抜きやら、鉛筆削りに入らないくらい短くなった鉛筆やら、とにかくいろんなものが僕のまわりでひしひしと増えていく。

 この文を読んだ時、私はオヤッと思ったんですね。
 何にオヤッと思ったかと言いますと、「ものを集めるということにそれほど興味があるわけではない」「ついつい『集まってしまう』」の例の中に「LPレコード」も入っていたことす。
 しかし村上春樹のジャズレコードの収集と言えば、少しでも村上春樹に興味を持つ人なら誰でも必ず知っていそうな「コード」ではないですか。

 それを村上本人が、「それほど興味があるわけではない」で他の収集物と一緒くたにまとめて書いているというのは、どうですか、オヤッと思っておかしくない「違和感」ではありませんか。

 昔、私は、鹿島茂の『子供よりも古書が大事と思いたい』というエッセイを読みましたが、このタイトルからだけでもわかる鹿島茂のコレクターとしての「覚悟」に比べると、本書における村上春樹のコレクターとしての立ち位置は、韜晦などとというより、とても「不誠実」な告白ではないのか、と。

 ……と、まぁ、そんなに始めから「目くじら」を立てるような本でもありません。
 村上春樹が、その時々に買ったり貰ったりしたTシャツについて、写真と共に語った気軽なエッセイであります。

 しかし、えらいもので、最初に読んだ一文にオヤッと思ってしまったせいで、実は私は、最後まで「楽しみ切って」読むことができないで終わりました。
 せっかくワクワクして読み始めたのに、村上ファンの私としては珍しく、少々、何か残るものがありました。……。

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