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終わりよければ全てよし、ってことかな

  『新・シングルライフ』海老坂武(集英社新書)

 今回上記の本を読んだのは、少し前に、関川夏央の『中年シングル生活』というよく似た感じの本を読んだんですね。するとその本がなかなかに面白くって、そんなことを覚えていたものだから、またこれもと選んだんですが、うーん、前半から中盤くらいまでは、なんともうじうじしたシングルライフの理論武装(なにゆえに自分はシングルであるのかといった)が書かれてありました。
 それがまた、非常にショボイ。こんなこと書いているからシングル者は気楽なものだと思われるんじゃないかと、思いつつ読んできました。

 ところが、終盤、俄然面白くなってくるんですねー。
 なぜかというと、そもそもこの筆者は1934年生まれなんですね。これくらいの年齢の人が、半生をシングルで通すというのは、何というか、時代・世相的にはかなりの抵抗があったわけですね。
 シングルであることのマニュフェストを発表するということは、いわば一つの世界に対する断固たる「拒否」の意志を示すことに他ならなかったわけです。

 ところが、もうおわかりのように、時代は移り、この筆者が半ば命がけで拒否しながら少しずつ広げてきた地平を、なーーんも考えない連中が、ガムなんか噛みつつKポップなんかをiPadで聞きながら、すーーーと横を通り過ぎていくんですね。
 いわばそれに対する「鼻白む」様、それの書かれるのが終盤で、これがなかなかおもしろかったです。

 そう言う風に見ていくと、中盤までのうじうじとした展開も、実際、現代において伝統的な夫婦生活や家族生活が崩壊の時を迎えつつあることはやはり間違いのない事実でありますし、新しい時代を作るのはいつだって、現在に激しい抵抗を感じている人々に他なりません。そう考えると、そんなことをうじうじ考え続ける理性というものにも、あるいは新しい方向性が、生まれるやも知れないではありませんか。

 ということで、終わりよければすべて良し、後半の良い本は読後感も悪くないんだなと言うことが分かった一冊でありました。なるほどねー。

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