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大切な友人へ

トロンパのお客さまでもあり
大切な友人のイケさん(池田さん)が、
63歳という若さで
闘病の末、天国へと旅立ちました。



トロンパの週末のオープンは2時です。
イケさんと出会ったのは
2015年のオープンしたての頃だったと思います。

この街に、
立ち飲みのスペインバルというスタイルが
珍しかったオープンした当初は
次から次へと
はじめましてのお客さまに出会うことができました。

今でも、お客さまの顔と名前を
覚えるのが得意じゃない僕ですが
さすがに週末の口開けのお客さまが
イケさんであることが続いたので
自然と顔と名前を覚えてゆきました。


オープンから日が経つと
週末だからといって
2時オープンだからといって
お客さまがどっと混み合うことは
ありませんでした。

そんな時でも
ずっと週末の口開けは
イケさんが顔を出してくれました。


おかげで
イケさんと、あーだこーだ世間話をしたり
新しくできた経堂のお店の話をしたり
生中継のサッカー見たり、スポーツみたり
ゆったりと過ごしました。


経堂の個人飲食店が好きなイケさんは
はじめてご来店したお客さまが
経堂に引っ越してきたばかりだと聞くと
「寿司ならあそこがいいよ」
「刺身ならあそこ」
「変わった焼酎が飲みたかったらどこどこ」
「やきとんなら、、、」
と嬉しそうに話していました。

きっと、よその店でも
「スペイン料理ならトロンパがいいよ」
と言っていてくれてたんだと思います。


今でこそ、
スペインサッカー、とくにバルサに夢中な僕は
イケさんが毎年持ってきてくれる
ヨーロッパサッカーの選手名鑑が
きっかけと言っても過言ではありません。

イケさんは出版社に勤めていて
全国の本屋さんに営業で回っていたこともあって
やたらと全国の美味いもんに詳しいです。

作家の先生の編集の仕事もされてたので
歴史や風俗、文化、いろんな話題に明るく
若い頃は、手塚治虫氏の原稿を受け取るのが
とにかく大変だったと嬉しそうに
話しているのを何度も耳にしました。

80年代のベストヒットUSAの頃の洋楽が好きで、
土曜の午後は
よくランニングクラブの井上キャプテンと
音楽の話題で盛り上がっていました。

毎年桜の季節には近所の公園で
お客さまと一緒に花見をしました。
桜色したにごり酒の一升瓶を抱えて
日が暮れるまで騒ぎました。

周年祭や生誕祭
僕が企画したイベントにも
ほとんど参加してくださったんじゃないかと
思います。

参加していなくても
スペイン語教室やワイン教室の
あとの2時過ぎには合流して
一緒に飲むことが多かったと思います。

昼だけじゃなく
イケさんが友人と楽しく飲んだ日も
2軒目、3軒目で(酔って)寄ってくれて
僕が「もうまっすぐ歩けないから
タクシー呼ぶから待っててください」と
住所を告げて乗せたこともありました。
(1メーターの距離すみません)

うちのスタッフもみんなお世話になりました。
パーフェクトなサッポロ黒ラベルを注ぐのも
正しくワインを注ぐのも
美味しく生ハムをスライスするのも
「やれやれ、また練習台か」と
全スタッフに胸を貸してくださいました。

まだまだ、数え上げたらきりがありません。
感謝してもしきれない

まだ、なにも返せていない。




ずっと治療していたことは
知っていましたし

「今日病院行ってきた」
「え!飲んでいいんですか?」
というやりとりも何度したことか。



今年の春を過ぎたあたりから
「今週はイケさんいらっしゃらなかったなあ」
という日がつづきました。

ゴールデンウィークの頃には
緊急事態宣言も出て
飲食店は、お酒が提供できなくなりました。

夏のオリンピック前
一瞬、お酒が提供できていた頃
「うちで飲むからいいやつ頂戴」と
白ワインを買って帰られたのが
イケさんにとって最後のトロンパだったと思います。




先月10月17日、忘れもしない
ソムリエ2次試験を受ける前の晩
イケさんの奥さんから連絡をもらいました。


自宅での療養に切り替えたと、
親しい友人に会っておきたい、と。




ご自宅にお見舞いに伺いました。
たくさんの本棚に囲まれたお部屋で
以前の治療中の時よりは
ずいぶん穏やかな様子で迎えてくれました。

いつもの他愛ない話をしました。

緊急事態宣言が明けて
お客さんは戻ってきてる?
スタッフは元気か?
野村さんの家族や息子たちは元気か?


「またトロンパに来てくださいね」

「おう、またな」

これが交わした最後の言葉だったと思います。







あれからひと月が過ぎ
奥さんから
昨日、亡くなったことと、
家族に見守られ穏やかな最期だったと。
連絡をいただきました。






お店をやっていれば
いろいろあります。
転勤や引っ越しでこの町を
離れることも
すれ違いや、なんとなくで
疎遠になることも。

だけども
何かのきっかけで出会えたら
たまたま席が隣になったでも
思わぬ話題で盛り上がったでも

出会いは一瞬、
出会えば一生。


そんな気持ちで店をやっています。

トロンパがあることで
お客さまの人生が豊かになったらいいな
なんて、そんな大それたことは
できないかもしれないけれど

ほんの毎日の嬉しかったことが
共感し合えたり
笑いたい気分の時には
トロンパを選んでくれたり

悲しい時に一緒に凹んでくれたり
笑い飛ばしてくれたり

こんな場所があってよかったな
こんな居場所があってよかったな

と思える存在でありつづけたいと
思います。



イケさん、まだまだ会えるのは
先になりそうですが
そちらから暖かく見守ってください。




心よりご冥福をお祈りいたします。




2021年11月16日

トロンパ店主 野村卓也


イケさんinトロンパの
思い出写真
https://1lejend.com/c/hpzA/hFOa/n/

思い出写真の中にコメント欄に
メッセージが書き込めます。

〜イケさんと親交のあった方へ〜

イケさんの奥さまも
見られるようになっていますので
もし何か、楽しい思い出のメッセージなどが
ありましたら、
こちらに書き込んでいただけませんでしょうか。



追記

このことをメルマガで
書くかどうか、送信する最後まで迷っていました。

イケさんという
ひとりの人間と出会った僕の記録であり
トロンパの歴史のストーリーを語る上で
外せないお客さまのことなので
想いを綴りました。

昨日の営業は、どこか
これを読んだお客さまたちが
多く駆けつけてくれました。

イケさんの思い出を語って
だいたいが楽しい思い出話の中に
目尻にみんな涙が滲んでいました。

メールでも
返信をいただき、

大変ショックでしたが
知らせてくれてありがとう

という声が多くいただきました。

なかでも奥さまから(奥さまもメルマガ読者なので)
お礼のメールをいただけたことに
この文章を書いたことは間違いじゃなかったと
あらためて思いました。


不思議と、週末の午後に
またひょっこり会えそうな
気がしています。

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