成田〇悠輔△にお小遣いをねだる方法

一昔前、脱サラして蕎麦屋を始めるという夢が流行った。
所謂バブル期と呼ばれた時代で、栄養剤のコマーシャルで「24時間戦えますか!?」などと流れていた時代だ。
ビジネスマンがアホほど給料を貰っていた時代。

文字通り死ぬほど働いてそれに見合った給料を貰えていた時代。
今の若い人には聞き馴染みが無いだろうが脱サラとは脱法サラリーマンの略か何かだ。

オレは中卒のトラック運転手でビジネスマンではないので脱サラが何なのか正確には知らない。

因みに成田悠輔くんも仕事がなくなったら蕎麦屋でもやろうかと言っていた。
成田悠輔くんとは〇×の不思議なメガネをかけたなんかすげえ頭の良さそうな人だ。
オレは中卒だが。

よし、まず蕎麦屋を始めよう。
まず蕎麦は打たない。面倒くさいからだ。
面倒くさくなくても打ったりはしない。打てないからだ。

でも大丈夫、蕎麦は近所の蕎麦屋が分けてくれる。もちろんタダでだ。

なぜならオレの蕎麦屋は客が殺到するのでそこに蕎麦を卸しているとなれば、蕎麦を提供してくれるその蕎麦屋の宣伝にもなるからだ。

何なら乾麺でもいいい。どこぞのメーカーが提供してくれるだろう、もちろんタダでだ。

なぜならオレの蕎麦屋は客が殺到するのでそこに乾麺を卸しているとなればそのメーカーの商品もまた爆売れするだろうからだ。

原価タダで蕎麦屋が経営できるわけだ。儲からないわけがない、客が殺到する。

そうだ、蕎麦にはツユも大事だった。
勿論ツユも作らない。昆布や鰹節を茹でたりして暑そうだからだ。

しかしここはこだわりを見せる他ない。
スーパーで売っているヤマサとか創味のめんつゆを買ってくる。好きなもので良い。
そこに桃屋のめんつゆを加える。

これが秘訣であり、こだわりだ。
二種類のめんつゆをブレンドすると今までに誰も味わったことが無い複雑な味わいが生まれる。

そりゃあそうだ、市販のめんつゆを混ぜるなんて誰もやったことが無いだろうからだ。つまり誰も味わったことが無いめんつゆの完成だ。

しかし片方は絶対に桃屋のめんつゆでなくてはいけない。
あのビンの形状がいかにも蕎麦屋らしいからだ。

ペットボトルや紙パックでは様にならない。桃屋のビンのめんつゆは必須だ。まあ旨いしね。
オレは子供の頃から桃屋のめんつゆになじみがあり大好きだった。
近所の蕎麦屋のめんつゆの味は桃屋のめんつゆにそっくりだった。
桃屋のめんつゆはそれくらい美味いんだ。

そして同じようにめんゆつもメーカーがタダで提供してくれることになるだろう。

因みにめんつゆに限らず、焼き肉のタレや、カレーのルーなども二種類混ぜて使うだけで格段に旨くなるのだ。

選ぶコツはメーカーは別にする事と、片方はなんかカッコいい物を選ぶこと。
これだけで貴方の作るカレーや焼き肉は格段に旨くなる。本当だ。

蕎麦屋に戻ろう。
美味い蕎麦に必要なのは実は蕎麦そのものやめんつゆだけではない。もっと重要な物がある。

それ水だ。
美味い蕎麦に欠かせないものは茹でる水だ。 
これはオレが昔、暇さえあれば車で出かけ全国のアリとあらゆる蕎麦屋に立ち寄った経験から気が付いたものだ。

50~70軒は行ったと思う。
ゴメン少し盛った。20~30軒くらいだと思う。あと関東の周囲までしか行っていない。

ある日、群馬の山道を走っていたオレはいつものように蕎麦屋に立ち寄りトイレに駆け込んだ。
オレの膀胱は常にあふれんばかりなのだ。
高速道路を走っていたら全てのPAやSAに立ち寄りトイレに走る。ホッとしたらお茶を買いそれを飲みながら次のSAまでに小便をためるのだ。

新潟から自販機などろくにない国道17号、三国峠を走ってきたオレは喉の渇きを覚えており、その蕎麦屋のトイレの水を飲んだ。

一応言っておくと手洗い場の水だ。オレのママは便器に顔を突っ込んで水を飲む方法は教えてくれなかった。

それがビックリするほど美味い水だった。
そしてその店の蕎麦は今まで食べた蕎麦の中で一番美味い蕎麦だった。

マイタケの天ざるを頼んだのだがそれを後悔するほど美味い蕎麦だった。
天ぷらも美味しかったが蕎麦があまりに美味すぎるせいで胃に天ぷらを入れたくなかったからだ。

しかしいくら蕎麦が美味かったからと言って二枚三枚と蕎麦を重ねておいて天ぷらを残すというのはさすがに失礼だろう。
それに天ぷらももちろん美味かった。

しかし実に美味い蕎麦だった。
江戸小噺で「粋な江戸っ子はつゆに蕎麦を浸ける様に入れて泳がせるような真似はしない」なんてのがあるらしいが、これが本当だと思える蕎麦だった。

誰も寿司や刺身に醤油をベッタリ付けて食べるような真似はしないだろう。それと同じだ。

搗きたての魚沼産のコシヒカリの新米を炊いたならおかずは要らない。
海苔を巻いた塩にぎりで味噌汁があれば良い。

オカズは生姜焼きだろ!なんていうやつはステーキにラズベリージャムでも塗ってろ。
素材が良ければ良いほどシンプルな味付けが良しとされるのと同じことだ。
まあ毎日は食いたくないけど。

本当に美味い蕎麦は数寸だけめんつゆに浸けて食べるのが一番美味い食い方だ。

薬味はいらない。海苔くらいか。美味い蕎麦にはネギですら邪魔になる。マジで。
山葵など以ての外。
なぜならオレは山葵を食うとサンズリバーの遠泳大会に強制参加を強いられて流されていく羽目になるからね。
危険がアブねぇぜ。

オレは結局一枚も追加することなくマイタケの天ざるそばを食べ終え店を出た。
それは20年以上前のことでその蕎麦屋は老夫婦が二人で営んでいる山間の小さな店だったのでおそらくもう無いだろう。
しかしオレは美味い蕎麦は美味い水で茹でることが最も重要だという事に気が付いた。

実際、山奥のお冷が美味い蕎麦屋の蕎麦は例外なく美味いし、東京にはそれほど美味い蕎麦屋がない。メイビーね。

そして今までに一番美味いトイレの水は三国街道の蕎麦屋のトイレの水だったし、今までに一番美味い蕎麦もその店だった。
さらに言うと、蕎麦湯を美味いと思えたのはこの蕎麦屋だけだ。
蕎麦湯なんて、めんつゆを一滴残さず口にしたいと思っていた時代の食文化なのに、水が美味いから蕎麦湯も美味いと思った。

そう、蕎麦で一番重要なのは茹でる水だ。
嘘だと思うならスーパーで適当な蕎麦を買って来てミネラルウォーターで茹でてみるといい。
格段に旨くなるとまでは言わないが、一段上の蕎麦になっているはずだ。いや半段くらいかも。
その時は「美味い!」って思えないかもしれない。でもミネラル蕎麦を食べ続けて、そのあとに水道水蕎麦を食べると「あれ?なんか違うな」ってなる。

少し美味しくなった!を感じることは難しいけど、少しマズくなった!結構わかるからね。

茹で水だけど、どこでも売っているミネラルウォーターの中でお薦めの水はアサヒのバナジウム天然水かな。富士山系の水が良いと思う。
出来れば群馬とか北関東系の水があれば良さそうだけど、見たことないしね。
逆にイマイチだったのはエビアン。硬水はお蕎麦は合わないのかもしれない。

米を炊くときにミネラルウォーターを使うのもお勧め。炊くお水だけでいいよ。研ぐのは水道水でいいから、蕎麦を茹でるほどの量は必要ないのでよりお手軽に白飯が半段上の味になるよ。
ミネラル白飯はそれほどうまくはないんだけど、それを食い続けた後に水道水白飯を食うと(あれ?なんか失敗したかな?)ってなるよ。
いや、マジで。

というわけで成田悠輔クンは蕎麦屋に茹で水を売る仕事を始めてもらうことになる。

茹でる用の水なのでさほど厳格な品質管理はいらないだろうから比較的低予算で始められると思う。

蕎麦屋は「成田クンの〇×ウォーターを使っています!」というのが一つの売りになるだろうからこの事業は大成功を収めるはずだ。

すると成田くんはオレにお小遣いをくれるはずだ。

二兆円くらい。







    

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