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福岡 29歳 春

九州には行ったことがなかった。
飛行機で移動するなんて、自分の選択肢には無かった。

東北の盆地で育つと、移動手段の第一優先は車だ。
新幹線は未だにテンションがあがる乗り物。在来線の電車は、新幹線に乗るとき、駐車場に困るから乗るだけ。最近は高速バスも便利になって、地元で在来線に乗ることは減ってきた。
飛行機は、これよりさらにドキドキする乗り物だった。

大学は、地元からそれほど遠くない地方都市にあって、西日本の出身の友人もちらほらいた。
その友人から、長期休暇で帰省するときには飛行機で移動すると聞いて、なんなら、受験するときに一人飛行機に乗ってきたと聞いて、18歳の私はたいそう驚いた。

今思えば、ただの世間知らずの子供だったのだけど、そこから飛行機に対する意識も少し変わったのかもしれない。
ある意味、世界が広がった、ということなのか。

初めて飛行機に乗ったのは、大学で数週間の海外研修に行ったとき。初飛行機で初海外。あの時は、隣の座席だった後輩の手を握ってたな。

それから数年たって、今、一人で福岡に行こうとしている。

福岡は、空港から繁華街までが特に近いそうだ。
これだけ飛行機が身近にあれば、見えてる景色、考えているもの、何もかも違ってきそう。

数日間滞在して、観光客らしく博多ラーメンに並んだり、市民のふりをして百貨店で買い物をしたりしたけれど、一番新鮮だったのはバスツアーだった。

なんせ、福岡という土地は知らないところだらけなので、定番をめぐる1時間くらいのバスツアーに申し込んでみた。屋根のないバスで、ガイドさんの説明を聞きながら市街地を周る。
ガイドさんの説明は修学旅行のようで懐かしくもあり、知識が入って興味深くもあり、ツアー前に自分で訪れた神社も由来を聞くと違って見えるなぁ、なんて満足げにツアーを楽しんだ。

ホテルに戻り、興奮しながら車内で撮っていた動画を見返す。
2階建てのバスから見えた都会の広い道路や、標識の近さ、天神駅と博多駅の位置とまちの構造、屋根のないバスで走る高速道路と、車から見える海。そんなものばかりが記録に残されていて、やっぱり私は車に乗る人なんだな、と、自分に教えられる。
飛行機で遠い地までやってきても、移動手段といえば車だ。

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