言い訳ノートあるいは『面影は消えない』の感想について

 終わった作品(落選作)についてあれこれ書くのもいかがなものか、と思ったのですが、未来の自分のために少しまとめておくことにしました。

 サクラクロニクルさんから詳細な感想を頂きました。ありがとうございます。

 返信がX(Twitter)ではもはや追いつかないので、noteに自分の復習も含めて記事を書くことにしました。
 ほぼ私信なのですが、『面影は消えない』の核心に触れるため、興味を持たれた奇特な方はお読みください。

 サクラクロニクルさんがご自身のイグBFC4の作品との対照性を述べられていますが、これは偶然の一致です。まさしく近い時期に同じようなことを考えていたのでしょう。
 ただ、完全に偶然とも言い切れません。さなコン2以来めっちゃ意識している(してしまう)作家が二人いて、二人とも創作者をモチーフにした作品を書いているので、俺も書いておこう、というのが初期衝動だった部分があるから。なお二人の作家とは、冬寂ましろさんとサクラクロニクルさんのことです。


 『面影は消えない』において「成功者の物語」というのはほとんど意識していませんでした。お察しの通り「自分を変えたきっかけ」が物語の核なのですが、加えて〝変わりゆくものの中で変わらぬもの〟というもう一つの核があります。
 視点が和己なので彼女の変化に焦点を当てていますが、その中でも春水=チュンシュイも変化していて、互いにフィードバックし合ってそれがループしている、というように書いたつもりでした。
 最後のシーンで距離感の変化した二人を書いていますが、チュンシュイの話し方に表記以外の変化を少し付けました。これは日本語に習熟した変化だけではなく、以前の彼女が表現しようとしてもできなかったニュアンスを話せるようになった、という変化です。
 それでいて、チュンシュイ自身は「私は私のままだよ(なにも変わってないよ)」と思っており、和己も「(それは)わかっているよ」と了解しています。
 実際、こうしたやりとりを書いたバージョンも存在したのですが、試行錯誤の末に現在の形で本文では語らないことにしました。この時点で六枚ぎりぎりで、もはや削る場所がない状況だったこともあります。

 こうした背景から、タイトル案として「フィードバックループ(Feedbackloop)」があり、一回そちらにしたのですが最終的に「面影は消えない」を取ることにしました。そして、この変更と再変更を投稿ぎりぎりで行ったため、投稿フォームの「題名」欄と「本文」欄に記載するタイトルが食い違ってしまい、それに気づかず(見落として)応募してしまう、という失態を演じています。西崎さんその節は大変失礼いたしました。

 文章がすんなり読めること、とりわけ音響的なリズムを意識し始めたのは2023年の春頃からなので、BFC5落選展を通してようやく身になったかな、と確認を取れた思いがします。
 ルビについて指摘があったので白状しておくと、「ルビは文字数に含まれない」との規定にあるものの、万が一の事故が恐ろしくて今回はルビを使えなかったのでした。BFCならば初見で「春水」を「はるみ」と読んでもらえるだろう、という甘えもありました。
 言い訳をしておくと、漢字+カタカナで話すチュンシュイの話し方が読みにくいことは織り込み済みで、その引っかかりを「イントネーションのあやしい日本語」として感じてもらえるようにと仕込んだものでした。

 それから「主人公の思想信条によって単語の持つ性質が左右されている点」については、さすが鋭い。実はこの点をいつ誰に指摘されるか、とびくびくしていました。
 ご指摘の通り「(和己が)春水の文章を良い」とする論理的な説明を書いていない(紙幅の都合から書けなかった)部分については、妥協した部分であり逃げだと突っ込まれる覚悟はしていました。
 具体的に春水がどんな(日本語の)文章を書くのか記したバージョンも存在したのですが、ここはすっぱりと〝和己が人間関係を独善的に捉えて語っている〟という方向にまとめることにしました。
 その独善さを最後に出て来る互いへの好意につないだつもりだったのですが、引っかかる人はやはり引っかかってしまうよなあ……と思った次第です。

 主人公の魅力が描き足りていない、というのは仰るとおりで、当初はもう少し表情がわかるように書いていたのですが、六枚に収めるために削りました。
 当初、明確に思い描けたシーンがビッグサイトの部分で、そこを基点にして物語を組み上げたため人物の描写がチュンシュイに偏ってしまったこともあると思います。
 この小説の登場人物設定以上のプロットはないのですが、原稿用紙六枚でもプロットを組める場合は組んだ方がいいと再確認しました。

 百合については、今回意識せずに百合を書いていて途中で気づいて方向を修正した、という経緯があります。
 あらためてこの作品を要約すると、自分に自信を持てない内向的な女性が顔を上げて生きられるようになったきっかけを描いた物語となります。こうまとめてしまうと、あんたいつもそれ書いているな、という気がしてくるがたぶんこのモチーフはこれからも書くと思います。

 最後に私の視点から言わせて貰うと、登場人物のストイックさが生きる百合作品だとサクロさんには到底敵わないし、総合的に見ても自分は一歩及んでいないと感じています。この思いはいまだに払拭されていません。そのため、同じ題材で違う作品を書く(偶然ではなく狙って書く)という試みを思いつき、書き上げたのが『二人の落選展』です。

追伸
 眼鏡っ娘……。直近で没にしたのがまさに眼鏡っ娘が出てくる小説だったのでまた考えてみます。

 
 ——といった記事を11月7日頃に書いていながら忘れていました。いまさらながら(ところどころ手直して)こっそり公開します。

 以上となります。
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