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古今東西刑事映画レビューその38:デンジャラス・バディ

2011年から2015年の間、知人の編集する業界誌に寄稿していた刑事物映画のレビューを編集・再掲します。

2013/アメリカ
監督:ポール・フェイグ
出演:サンドラ・ブロック(サラ・アッシュバーン捜査官)
   メリッサ・マッカーシー(シャノン・マリンズ刑事)

 どこの国でも同じだろうが、エンターテインメントの世界の流行り廃りというのは残酷なほどに目まぐるしいものだ。
 もちろん、第一線でいつまでも何十年もやれる人のほうが希少で、だからこそ彼らはスターと呼ばれるのだろう。それにしても、ハリウッドの女優は特にサイクルが短いように思われる。実力がないのか、運がないのか、はたまた大金持ちを捕まえたから女優の仕事はやめたのか。いろんな理由があるだろうが、やはりそれだけ厳しい業界なのだろう。
 そんな中にあって、長年確固たる存在感を放つ女優のひとりにサンドラ・ブロックがいる。“スピード(’94)”でブレイクしたのはもう20年も前の話。その間、ゴールデングローブ賞に幾度かノミネートされたり、“しあわせの隠れ場所 (’09) ”でオスカーを獲得したり、華々しい活躍を続けている。女優としてだけでなく、プロデューサーとしても作品を手掛けており、ハリウッドでもトップクラスのマネーメーキングスターである。
 興味深いことに、彼女のキャリアを俯瞰すると大体4~6年周期でヤマが来ていることがわかる。そのくらいの間隔で、興行的にも批評的にも大きな成功を収める映画に出演しているのだ。一番最近のヤマは2013年。第86回アカデミー賞を7部門も獲得した“ゼロ・グラビティ”での熱演が高く評価され、自身も主演女優賞にノミネートされた年だ。
 その一方で、同じ年に彼女が主演したもう1つの作品も、アメリカでは大ヒットしている。1年に2度もヒット作品に恵まれるのだから、「当たり年」と言っていいのではないだろうか。日本では単館での公開となり、イマイチ知名度のないその作品こそ、今回ご紹介する“デンジャラス・バディ”である。
 彼女が演じるのは、FBI捜査官のサラ。頭脳明晰で優秀なのだが、生真面目すぎて融通が利かないところと、常に上から目線で相手に接する傲慢さが嫌われ、組織の中で浮きまくっている。ある日彼女の上司が昇進し、異動することに。我こそは後継者にふさわしいと名乗りを上げるが、上司は良い顔をしない。食い下がる彼女に上司は、昇進の条件としてボストンへの出張を命じる。かの地で麻薬取引を牛耳る大物を、ボストン警察と協力して捕らえるのが彼女の任務だ。鼻息荒くボストンへ向かったサラを待っていたのは、ボストン署の女刑事、シャノン・マリンズだった。
彼女たちは容貌から性格から何もかもが正反対だ。生真面目で、ルールを重視するサラと、直感を頼りにブルドーザーのように犯罪者を追うシャノン。当然のように最初からコンビネーション抜群と言うわけにはいかず、お互いを「煙たい奴」と思っているのだが、捜査を進めるうちにいつしか女の友情で結ばれていく。この展開は最早バディもののお約束だろうが、やはり観ていて気持ちよく、共感を誘うものだ。
いくら男女平等とはいえ、やっぱりまだまだ男性の多い警察の中で、自分のやり方を貫こうとするサラとシャノン。もともとの性格も相俟って、職場では一匹狼になっているし、プライベートでもサラは天涯孤独、シャノンも家族から白眼視されてしまっている。けれども、どんなに周りから浮いてしまっても、そのせいで同僚から陰で笑われていたとしても、彼女たちはいつでも真剣そのもので、一生懸命なのだ。
監督のポール・フェイグは、そんな彼女たちの姿を、コミカルに、しかし愛をこめて描いている。たとえば、彼女らの毒舌の応酬はかなり激しく、たとえば面と向かって「あんたムカつくのよ」なんて序の口と言う具合。しかし、これが全く不快に感じられない。女性同士ならではのイヤミの無さを、実にうまく利用しているのだ。
サンドラ・ブロックは過去にもFBIの捜査官を演じたことがある。中でも有名な作品である“デンジャラス・ビューティー(’00)”とその続編で彼女が扮した、生真面目で男っ気がなく、自分の身なりにもあまり気を使わないような女性、と言うキャラクターは本作のサラにも大いに反映されているように思われる。“デンジャラス・バディ”というタイトルも、恐らくこの作品がインスピレーションのソースになっているのだろう。ただ、その作品よりも、今作のほうがはるかに自由で、自分に正直な女性像を描いていて、10余年の時代の流れを感じされられる。
サンドラ・ブロックと肩を並べる主演女優は、過去作でもポール・フェイグとタッグを組んだメリッサ・マッカーシー。個性的な声とルックス、抜群の存在感は大女優のサンドラにもひけをとらない。2人を取り巻く男たちを演じる俳優陣も、毒の強い脚本に負けない芸達者揃いだ。
スリルやサスペンス、本格的なポリスアクションをお求めの方には物足りないと思われるかもしれないが、思いっきり笑える作品が観たい方には、ぜひお勧めしたい1本である。

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