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2月の話② ヨコハマフットボール映画祭に行って来た件

 2013/2/23にアップしたやつ。

 2/17、みなとみらいに久しぶりに遊びに行ってきました。
 目的は、横浜美術館の「ロバート・キャパ/ゲルダ・タロー 2人の写真家展」と、「ヨコハマ・フットボール映画祭」を観に行くことです。

 私がロバート・キャパを知ったきっかけは沢木耕太郎さんの何かの作品を読んだことです。最近、彼がキャパの代表作「崩れ落ちる兵士」に関して思索を巡らせた本が上梓されたり、その様子をおさめたドキュメンタリーがNHKスペシャルで放映されたりと、今年の日本は色々キャパづいてるようです。
 で、ロバート・キャパと言うのは、実はフリードマン・エンドレ・エルネーと言う1人の青年と、ゲルダ・タローと名乗る1人の女性が作った架空の写真家なのですね。恋愛関係にもあった2人の写真家が、ロバート・キャパと言う人物が撮ったとして作品を発表し続けていたと言う。
 フリードマンに写真を教えてもらったゲルダ・タローが、写真家として成長して行くのと同時に、ロバート・キャパはフリードマンだけの変名となり、ゲルダは1人の女性写真家として活動をすることになるのですが、今回の展示は、そのロバート・キャパ(=フリードマン)と、ゲルダ・タローの作品を分けて展示すると言う試みがなされております。
 彼らが最初の名声を得たスペイン内戦の写真は勿論、彼らの仕事を時系列で展示しています。前半はゲルダの作品群、後半はキャパの作品群です。
 報道写真家、そして戦争写真家として著名なキャパですが、その興味の先はむしろ、戦場に向かう勇ましい兵士たちではなく、戦時でも日々を懸命に生きる市井の人々や、兵士たちがふとしたときに見せる素の人間としての姿であるように感じました。
 ゲルダ・タローのほうが、ユダヤ人として、女性として、反ファシストとして、反権力のジャーナリストとして、キャパよりも、自分の立場に自覚的であったように思います。スペイン内戦の写真でも、共和国軍の戦意を高揚させるような、そんな作品がいくつかありました。ただそんなゲルダの作品も、内戦の泥沼化と共に、戦火に身を投じる人々の疲弊した姿にフォーカスしていくようになるのですが。
 しかし、写真と言うのは本当にすごい。携帯電話にカメラがついて、最近はレタッチまでしてくれるようになって、ど素人でも良い感じっぽい写真が撮れるようになってきた昨今ですが、そんなものはプロが本気で撮った写真とは何もかもが違うのだと言うことをひしひしと感じました。構図、光と影のバランス、被写体の捕らえ方、フィルムに焼き付いているもの全てが違う。キャパの写真も勿論そうでした。
 2013年、今と言う世の中では、ロシアに落ちてきた隕石の映像さえ、撮った素人が即座に全世界にYouTubeで発信できます。けれどもやはり、プロのジャーナリストが報道写真を撮ると言うことの凄味、そこに込める意思、意味、が存在する限り、プロの写真家、ジャーナリスト、と言った人たちがいなくなってはいけないのだろうなと思いました。
 そんなこんなで、とても良かったです。写真展ってあんまり行かないんですけど…。だいぶ前にセバスチャン・サルガドの写真展に行って以来でしょうか。けれども、本当のプロの写真家と言う人たちは、自分以外のものを撮影しているのに、そこに自分の思いを込めることの出来る、稀有な人々なのだなと思います。


 で、ヨコハマ・フットボール映画祭です。
 みなとみらいのブリリア・ショート・ショート・シアターと言うショートフィルム専門の映画館で行われる、サッカーにまつわる映画だけを集めた映画祭。今年で2回目です。
 去年、第1回の際、「クラシコ」を観に行きたいなと思いつつ行けなかったので、今年は「狂熱のザンクトパウリ・スタジアム」と言うドキュメンタリーを観に行きました。

 ドイツの2部リーグ(10-11は確か1部でプレーしてましたね、1年で降格しましたが)に、FCザンクトパウリと言うクラブがあります。ハンブルグの繁華街に本拠地を構えるクラブですが、何でそんなクラブを知っているかと言うと、クラブのフラッグがクソカッコイイからなのです。これです。

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 これズルいよね。かっこよすぎるもん。
 ザンクトパウリ、やたらと有名だけど、このフラッグのおかげだと思うよ。80%くらいは。

 で、そんなザンクトパウリの、とある試合の「観客席だけを映した」映画が、この「狂熱のザンクトパウリ・スタジアム」なのです。
 ザンクトパウリの本拠地は、ドイツ有数の歓楽街のすぐそばにあるのだそうです。日本で言うなら、歌舞伎町のど真ん中にスタジアムがある感じかもしれません。
 ハンブルグのその辺に住んでるおっさん・おばさん・じいさん・ばあさん・兄ちゃん・姉ちゃんたちが、ゴール裏で、唄ったり跳ねたりヤジったりビール飲んだりボヤいたりしてる様子をひたすら映していると言う、そんな映画。
 全然面白そうに思えないかもしれないのですが、とっても面白かった。
 サッカーを応援しに行ったことがある人なら、いや、スポーツ観戦をしに行ったことがある人なら、絶対楽しいと思う。
 点が入らなくて攻撃が噛み合ってない時に「俺の婆さんでも点決められるぜ」ってボヤいてみたり。
 PK2回もとってもらったのに、2回とも外してる選手たちに「このクソヤローが!」って怒鳴ったり。
 待望の得点が入った瞬間、ビールの入った紙カップが宙を舞ったり。
 皆で、唄って、跳ねて、選手たちを讃えたり。
 自分もサッカー観てるみたいな気分になって、なんだか楽しくて、笑顔になってしまいました。

「俺たちはパンクだ! 反権力のパンクだ!」
「金持ちは戦争でもしてろ! 俺たちはサッカーを観る!」

 こんなチャントを声高らかに唄うザンクトパウリのサポーターたちに、庶民の誇りを見ました。


 「ロバート・キャパ/ゲルダ・タロー展」も、「狂熱のザンクトパウリスタジアム」も、時代も国も違えども、何て言うか「反権力」の気骨みたいなものが共通していたのかな、と勝手に思ったりしました。
 自分の生活や信条を脅かす、強い力への反発。
 それが、何かを生み出すエネルギーになっていることに間違いは無く。
 何だかすごく共感を覚えたりしたのでした。

 私もエリート庶民として、誇り高く生きて行きたいものです。
 そんな、2月の真ん中の、楽しかったできごと。
 2月の映画は、また今度。

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