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古今東西刑事映画レビューその46:友よ、さらばと言おう

2011年から2015年の間、知人の編集する業界誌に寄稿していた刑事物映画のレビューを編集・再掲します。

2014年/フランス
監督:フレッド・カバイエ
出演:ヴァンサン・ランドン(シモン)
   ジル・ルルーシュ(フランク)

 小欄でご紹介する5本目のフランス映画である。アメリカ・香港・日本・イギリス・イタリアなど、様々な国の映画を取り上げて来たが、この5本と言うのはアメリカ映画に続く頻度ではなかろうかと思われる。理由は至極シンプルなものだ。「フランス映画は面白い」、それに尽きる。
 特に、近年、フランス映画において一定の存在感を獲得するに至った「フィルム・ノワール」と称される犯罪ものに秀作が多いのだ。
「フィルム・ノワール」と言う言葉自体は古く、それこそ前世紀の半ばくらいから犯罪映画を表す言葉として使われてきたものだ。フランスでもこのジャンルの映画が盛んに製作されたのは1950年から70年頃だと言われている。それが近年になってやにわに再興の兆しを見せたのは、リュック・ベッソン率いるヨーロッパ・コープや、元警察官という異色の経歴を持つオリヴィエ・マルシャルなど、優れたフィルムメーカーの登場が最も大きな理由と言えるだろう。
 そんなフランス犯罪アクション映画界隈にあって、近年最も注目を浴びる監督が、この“友よ、さらばと言おう”を監督したフレッド・カバイエである。
 今年47歳のカバイエの、映画監督としてのキャリアは7年前から始まる。7年間で発表された4本の作品が全て高い評価を得て、そのうち2本はアメリカと韓国でリメイクが製作された。監督自身も次作はハリウッドに打って出る予定だと言う。そんな上昇気流に乗った監督が作った映画だ。面白くない訳がないのである。
 主人公は2人。元刑事のシモンと、現役刑事のフランクだ。彼らは親友同士で、かつて南フランスのトゥーロン警察で共に働いており、優秀な成績を収める名コンビとして知られていた。お互い家族にも恵まれ、幸せな日々を送っているかに見えた彼らだったが、しかし、シモンが勤務中に起こした人身事故が2人の運命を大きく変えることになる。
 飲酒運転のうえ3人の命を奪ってしまったシモンは警察を免職になり、6年間の懲役に服す。出所した後も罪の意識に苛まれている彼は、愛する家族と離れ、警備会社の社員として無気力な日々を送っていた。そんなシモンを見兼ねたフランクは何かと親身にシモンと、彼と別れた妻子、両方の面倒を見ているのだった。
ある日、シモンの息子のテオが、マフィアの殺人現場をたまたま目撃してしまい、マフィアに命を狙われるという危機に陥った。最愛の息子を守るため、全てを賭けて奔走するシモンと、それを手助けするフランク。シモンたちはマルセイユからパリに逃れるべく、TGV(フランスの高速鉄道)に乗り込むが、そこには既にマフィアの手が迫っていた……
 と言う物語である。
 フレッド・カバイエ作品には共通したモチーフがあって、それが「なりふり構わずに愛する者を守る」と言う男の姿。デビュー作“すべて彼女のために(’10)”では無実の罪で収監された妻を救うために脱獄を計画する男が、2作目の“この愛のために撃て(’11)”では誘拐された妻を助けようと孤軍奮闘する男が登場する。過去作品と同じく、シモンも愛する息子と元妻のために泥まみれの血だらけになって、白昼のマルセイユを、ナイトクラブの喧騒の中を、そしてTGVの中を疾走するわけだが、この作品ではそう言う男に併走者がいる。それが親友のフランクだ。フランクもまた、見ようによってはシモン以上に必死に、彼ら家族を救うために立ちまわる。それは刑事や友人と言う立場を越え、彼自身が何かの執念を抱えているようにさえ見える。
 この、極めて武骨な物語と、前面に押し出される男の友情。これこそが本作の最大の見どころと言ってもいいだろう。と言うより、ここ数年フランスで盛り上がっている「フィルム・ノワール」の大きな特徴は正にこれなのだ。男と男の、友情であったりライバル関係であったり、作品によって様々に肉付けされてはいるが、根本的に一対一で織り成される、女は立ち入り禁止とでも言わんばかりの緊密な関係、これに尽きるのである。半世紀前には日本の任侠映画で観ることが出来、2~30年前にはジョン・ウーやジョニー・トーが香港で繰り広げていた「男たちの挽歌」的世界、この美学の真っ当な引受人とでも言うべき存在が、2000年代に入ってからのフランス映画界なのだ。
 そんな、古き良き時代のエッセンスを引き継ぎつつ、現代的でソリッドなアクションシーンをこれでもかと詰め込んでくるのがこの作品のもう一つの魅力。有無を言わさずマシンガンを乱射する圧巻の銃撃シーンから、9年前のサッカー・ワールドカップ決勝を思い出させられる肉弾戦、そしてフランス映画お得意のハイテンションなカーチェイスまで、バラエティに富んだアクションを心行くまで楽しませてくれる。それでいて、上映時間は90分と言う短さ。フランスのこの手の映画はどの作品も大体90分から100分で終わることが多く、この潔さもまた、個人的には魅力の一つに感じられる。
 2004年の“あるいは裏切りと言う名の犬”の成功のおかげか、原題とかけ離れた邦題をつけられてしまうことの多い最近のフレンチ・ノワール。本作も御多聞に漏れず、原題は「MEA CULPA」(ラテン語で「私が悪いのです」と言う意味)というシンプルかつ奥深いものだ。最後の1秒まで観ないと、このタイトルをつけたカバイエ監督の真意は測れないだろう。
 男くさい、いぶし銀の、硬派な……そんな言葉で形容される映画が好ききだと仰る読者の皆様には、是非ご覧いただきたいと願ってやまない作品なのである。

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