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古今東西刑事映画レビューその34:ホワイトハウス・ダウン

2011年から2015年の間、知人の編集する業界誌に寄稿していた刑事物映画のレビューを編集・再掲します。

2013年/アメリカ
監督:ローラン・エメリッヒ
出演:チャニング・テイタム(ジョン・ケイル)
   ジェイミー・フォックス(ジェームズ・ソイヤー大統領)
   マギー・ギレンホール(キャロル・フィナティ)

 何かを壊させたら彼の右に出るものはない、と言うくらいの人である。
 本作の監督、ローラン・エメリッヒのことだ。
 “インディペンデンス・デイ(’96)”や“2012(’09)”などのディザスター・フィルムで心地よいほどの破壊シーンを見せつけてくれるローラン・エメリッヒ。瓦礫の山と化した摩天楼や、無残な姿をさらす自由の女神は今も記憶に新しい。個人的には、“トランスフォーマー”シリーズのマイケル・ベイと双璧をなすカタストロフ的崩壊映画の巨匠と思っている。とにかく壊す、壊す、壊す。あまりにも大胆に、そして、完膚なきまでに。
そして本作でも、エメリッヒは壊して、壊して、壊しまくる。壊されるのは、ホワイトハウス。言わずと知れた、アメリカ合衆国の大統領官邸である。
1952年のトルーマン大統領時代に現在の姿となったこの建物は、主に横並びの3つの棟から成り、中央のエグゼクティブ・レジデンスは地上3階・地下1階建、部屋数は130超、扉の数は400を数えるという。大統領と家族の居住空間ばかりでなく、執務室や応接室をそなえ、迎賓館としての機能も持ち合わせている。一般に公開もされており、一日に訪れる人の数は、観光客やスタッフなどすべて含めると5000人にもなるそうだ。
 エメリッヒは過去の作品でもホワイトハウスを破壊した「前科」があるのだが、それは人間の繁栄や権力の象徴としてのホワイトハウスをそうすることによって、今まさに人類が直面している危機の深刻さを表現するためであった。今回、ホワイトハウスが破壊の憂き目にあうのは、より即物的な理由で、「そこに大統領がいるから」である。大統領本人、そして彼の持つ強大な権力がテロリストの襲撃にさらされる。“ホワイトハウス・ダウン”はそんなお話である。
 主人公のジョン・ケイルは、「議会警察官」と言う日本では耳慣れない職業に就いている。アメリカ連邦議会の警察権は、合衆国議会警察と言う組織に委ねられており、議事堂の中での警察行為はすべて彼らの所掌となっているのだ。
下院議長のイーライ・ラフェルソンのボディガードを務める一方で、大統領警護官への転職を夢見ているジョン。努力実って、責任者との面接に臨むチャンスを得る。
面接のためホワイトハウスへ赴くことになったジョンには、ひとつのアイデアがあった。一人娘で、現在は離婚した妻のもとで暮らしているエイミーを、ホワイトハウスの観覧ツアーに招待したのだ。エイミーは現職大統領ソイヤーの大ファン。娘のためにも、ジョンは絶対に面接を突破したかったのである。
かくして大統領官邸に向かった親子だったが、そこで大事件が発生。謎の武装テロリストたちに官邸が占拠されてしまった。混乱の中、エイミーとはぐれてしまったジョンは、彼女を探してテロリストの跋扈するホワイトハウスを彷徨う。そして、偶然にも、射殺されかかっていた大統領、ジェームズ・ソイヤーを助けることになるのだった。
映画だから無傷だけれど、現実でこれをやったら10回以上は死んでいるだろうなと思わされるアクションシーンの迫力。肉弾戦あり、カーアクションあり、銃撃戦あり、重火器戦あり電脳戦あり、とバラエティも十分だ。ホワイトハウスの中で奮闘するジョンと大統領、テロリストたちの人質となりつつも健気に戦うエイミー、ホワイトハウスの外側から彼らを援護する警護官らが、テロリストたちの正体をあばき、真実に肉薄していく謎解きの面白さ。この映画のみどころは大きくこの2つだろうか。アクション映画好きなら、そこかしこに仕込まれている過去の名作へのオマージュも楽しめる(わかりやすいのは、主人公の衣裳が白タンクトップなこと。“ダイ・ハード”のジョン・マクレーンそのままである)。
舞台となるホワイトハウスの描写もかなり精密だ。そのセキュリティレベルの高さで取材には非常に苦労したそうだが、可能な限りリアリティを持たせており、ちょっとした観光案内になっている点も面白い。
また、海兵隊のヘリコプター「VH-3シーキング」や「UH-60ブラックホーク」、地対空ミサイル「ジャベリン」やステルス戦闘機「F-22ラプター」など、アメリカが誇る軍事装備品の数々も惜しげなく登場し、ミリタリー愛好家へのサービスも満点。マニアには見応えのあるシーンの連続だろう。
物語自体は非常にまっとうで、笑いあり涙あり、家族の絆あり戦いありと、正統派ハリウッドアクション大作のフォーマットのような映画だ。それがために、映画通の人は物足りなさを覚えるかもしれない。けれども、ここは初心にかえって楽しもうではないか。たまには、こんな映画を観るのもいいものだ。そんな気持ちにさせられる作品である。

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