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【映画感想】ヴァン・ダムを知らなくても楽しい「その男ヴァン・ダム」。

2010/11/5にアップしたやつ。

 ジャン・クロード・ヴァン・ダムの主演映画、観たことある人、たくさんいると思います。それこそ、10年くらい前までは。金髪碧眼で、ハンサムな顔立ち。そしてアクションがかっこいい。そんなヴァン・ダムが好きだった人もたくさんいるはず。しかし、今では「プリンセステンコーと何か噂のあった人」「健康食品のCMとか出てた」「テレ東の昼過ぎにやってる昔の映画でたまに観る」くらいな認識のされ方をしているようです。悲しい限りです。
 90年代、肉体派アクション映画にイヤと言うほど出演していたヴァン・ダム。けれどアクション映画がCG化・大作化・複雑化と大きく変化を遂げたことに、ヴァン・ダムは対応しきれませんでした。ブルース・ウィリスが「シックスセンス」で観客の涙を誘い、「アルマゲドン」で不動の記録を打ち立て、シュワちゃんが政治家へと華麗な転身を遂げているその脇で、ヴァン・ダムの映画は全然ヒットしなくなっていきます。まあ元から小粒ではあったですけど。
 彼がスタイルを変えられなかったのには、幾つか原因があるでしょうが、私は彼の結構堅牢なナルシズムみたいなものも理由のひとつではないかと思っていました。彼の映画には「ふたりのヴァン・ダム」が出てくるものが多いです。双子だったり、未来の自分がタイムスリップして来たり。画面を所狭しと暴れる「ふたりのヴァン・ダム」。おなかいっぱいです。「この人自分大好きなんだろうなあ」と当時高校生だった私は思ったものです。彼のカラテ技&マッチョハンサムなルックスを全面に押し出すためには、肉体派アクションがいちばんなのです。だから、ヴァン・ダムはそのスタイルにこだわらざるを得なかったのではないでしょうか。
 今回紹介する「その男ヴァン・ダム」は、そんな彼が、ジャン・クロード・ヴァン・ダム自身を演じるという、うたい文句だけ一瞥すると「おいおいまたそっち路線かい」と突っ込んでしまいたくなるような映画です。
 しかし、内容は全然違います。
 この映画で描かれているのは、すっかり落ち目になったヴァン・ダムです。離婚裁判に負け、娘には「パパがテレビに出ると友達に笑われる」と言う理由で嫌われ、弁護士に払うお金もなく、次回主演をするはずだった映画の役はスティーブン・セガールに奪われ、もう48歳、アクションをするにも息きれぎれで、若造の監督にさえなめられっぱなし。そんなヴァン・ダムを、ヴァン・ダムは実に冷静に演じています。
 あんなナルシズム全開だったはずの人が、自分をここまで客観的に見てるなんて!
 と、ヴァン・ダムに関してかなり歪んだ愛情を持っている私がびっくりしたのは言うまでも有りません。

 スターという存在に対する一般の人の思い込みや過剰な期待、「観る側」と「観られる側」のアンバランスな関係、特に「観る側」の傲慢さがそこかしこに描かれていて、これは今の日本の一般視聴者と芸能人の関係にも通じるものがあるのではないかと思いながら観ていました。
 この映画は虚構の物語ですが、架空の物語の中に現実の俳優を据えることによって、その彼さえ実は虚像なんだと言うことを浮かび上がらせるという入れ子のような構造を持っています。
 こう言うメタフィクションとも言うべき視点は本編の色んなところに顔を出しますが、ストーリー中盤~終盤の、かなり長いシークエンスに顕著に表れており、そのシーンにおいてヴァン・ダムは、生身の彼自身に肉薄した表情を見せてくれます。それすらもフィクションである映画のワンシーンでしかないわけですが、しかし、虚像の彼を観ていくうちに、スクリーンの向うにいる本当のヴァン・ダムという人間の姿を透かし観ることが出来る…そんな気がします。

 そう、この映画はトコトンまでヴァン・ダムを可哀想に描きながらも、ヴァン・ダムの人間性に迫る、ヴァン・ダム愛に溢れた映画なのです。この10年、結構毀誉褒貶があったようで、彼を嫌う人もいるようですが、そういう人々に対して新しいヴァン・ダムの姿を見せることで、彼への印象を変えてもらい、興味を持ってもらいたい!そんな気持ちが伝わってくる映画です。

 映像は全体的に彩度が低く、舞台となったブリュッセルの曇天も相まって、ヴァン・ダムの「どん詰まり感」が映像からだけでも伝わってきます。カメラワークは中々スタイリッシュで、「かっこいいなあ」と素直に思いました。脚本も普通に人質ものとして面白いと思います。あ、全くストーリーの概略に触れていませんが、一応「人質もの」です。
 90年代、ヴァン・ダムが大好きだった私のような人間にとっては、「ヴァン・ダムこういう演技も出来るんじゃん、やればいいじゃん、ヴァン・ダム良いじゃん」と再確認させてくれる映画ですが、ヴァン・ダムを今まで知らなかった人でも楽しめると思います。

 この映画は、もっと評価されるべき。
 96分と短い映画なので、暇つぶしに是非ご覧いただきたいと思います。

 そんなヴァン・ダム、この間軽い心臓発作で倒れたってニュースで私を絶望のどん底に突き落としたり、「ユニバーサル・ソルジャー」の続編がDVD化するって情報で私を爆笑させてくれたりと、相変わらず私の心をチクチクとつついてくれています。ヴァン・ダム大好きですよ。シュワちゃんよりスタローンより好きです。

 ここから下は、私的おすすめヴァン・ダム・ムービー。50音順。

 条件の限定された閉鎖空間、テロリストとの対決、という「ダイ・ハードもの」の中では結構良い出来かと。ヴァン・ダムはトラウマを負う元消防士役。

 あの「スト2」の映画版です。ヴァン・ダムはガイル少佐(映画だと大佐)役で堂々の主役。ゲームとは全く違うとファンの間では黒歴史化してるようですが、ゲームと切り離して観るとおもろいです。キャミィをあのカイリー・ミノーグが演じているのも特筆すべき点です。多分カイリー的にはフィルムごと抹殺したい映画だろうな。大好きだけど。

未来からやってきた時間警察ヴァン・ダムが、奥さんを守るために過去の自分と共闘!というお話。今アマゾンの関連検索を見たら、パート2があることを初めて知った。何と、主演はヴァン・ダムじゃないよ!

さわやかカラテインストラクターとチョイ悪の双子の兄弟(両方ヴァン・ダム)が女を奪い合いながら父の仇をうつよ!というお話。今改めてジャケットの写真を見たら、価格が¥999だった。皆もっとヴァン・ダムを大事に!

 監督はジョン・ウーだよ!鳩が飛んだかどうかは覚えてないよ!

 この映画がいちばん有名な気がする。それとも「ハード・ターゲット」のほうが有名なのだろうか。改造人間のアクション映画だよ!何気に監督がローランド・エメリッヒで、ヴァン・ダムのスター性を再認識せざるを得ない。

↓2021年追記

お前らこのドラマ知らないだろ!というわけでアマゾンプライムがどどんと制作したヴァン・ダムの主演ドラマだよ!実在のヴァンダムが実はシークレット・エージェント「ヴァン・ジョンソン」だったら?という、「その男ヴァン・ダム」みたいなメタなやつです。一話30分というお手軽フォーマットなので是非みてくれ!私は観た!(愛!)

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