#03|まったく新しいコンセプト。「躍動感」をカタチにした桐下駄
体感してこそ、腑に落ちることがある。工人への取材で「桐の木には粘りがあるんです」とよく耳にする言葉にピンときていなかったものだが、佐原さんの作った『カラコロ』を履き、歩いてみて雷にうたれたように合点がいった。〝弾性〟のことだったのだ。
会津南西部の只見川沿いに多く見られる薄紫の花が初夏の風情をみせる桐。白金の艶やかな板目もうるわしく、婚礼箪笥や文化財を収める箱など、古くから大切な品を守る保管箱に用いられてきた、密閉性と調湿機能を持つ優れた木材。その軽さから下駄としても広く利用されていたが、昭和40年中頃より生活スタイルの変化で消費量が激減し、最盛期に250軒が加盟した県の桐材組合も今や会津のみで10軒までとなった。
会津桐材組合長の佐原健司さんが、昨年の東京オリンピックを機にアスリートの躍動感をイメージし考案したのがこの製品だ。虚をつかれるほどにスポーティな桐下駄で、厚底サンダルの高さがありながらも、大胆に中ぐりをしてバネ力と軽さを生み出す。構造そのものが歩行をサポートをするので疲れにくい。足の甲が固定されるため普通の和装履物のように踵が離れず歩きやすいのも特長だ。ジャンプ直前の猫が力を溜めこむ、一瞬の姿を模したというデザインで、通常の下駄の3倍近い工程を経て一つひとつ手作りされる。
人肌に沿う温もり、さらりとしたはき心地を若い世代にも実感してほしいと生み出された。桐材の良さを持つ桐箪笥や琴は長い歴史の間に完成度が高まっているが、履物の一つとしてまだ身近な下駄には進化の可能性があることを、この『カラコロ』が証明している。
(取材撮影:2022年5月 初出:月刊会津嶺6月号)
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