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無敵になった日

受験生

脅迫電話がチラホラ鳴る頃、俺達は高校受験を控えていた。だいたいの男子達が志望するのが県立の鶴岡工業。当時は結構な倍率で人気があった。F-1レーサーになりたいベーサトは鶴工を狙っていた。ベーサトは滅茶苦茶に見えて初めて会った頃から勉強が出来たから問題無いだろうとは思った。

俺の成績は中の下くらいのところだったはず。
遊んでばかりいたから仕方ない。うちの母親は通ってる高校で人を判断する節が前からあった。
学歴社会なんて言われた時代だったから最低でも高卒くらいはと思っていたのだろう。
とにかく母が高校中退とかの人間に嫌悪感を抱いているのが前から感じ取れた。

私立じゃなく県立に入ればまぁ納得してくれるのだろうか。
みんな鶴工鶴工言ってるので皆と違った大山にある鶴岡西高等学校を受けようと思った。
西校は酒で有名な”大山”の酒造施設がある場所。地名もそのまま大山で市内から少し離れた海側にあった。学力的に狙えるのは鶴工以外だとそこが妥当だった。
早速勉強を開始した。落書き禁止の白い通学バッグに勉強しようと大きく書いて理科の元素記号の数々を覚える為にそこに書いた。

イオリとカトケン

そんな受験など全く関係ないような奴らも生息しているわけで一中では何やらどっかから来た転校生が問題を起こして騒いでるとか、三川中のカトケンとか言う奴が俺を狙ってるとかそんな話を聞くようになった。
カトケンは脅迫電話して来た奴の一人だと解った。

全く以て迷惑な奴らだが会う機会があればやってしまおうと思っていた。

一中の転校生の名はイオリと言った。
こいつは実際三中エリアまで遠征して来ていた。
ベーサトとユタは鶴岡公園の祭りで大人数に囲まれ一触即発の状態になったけど俺らに手を出したら「橋本タクちゃんと長南亮が黙ってないぞ」と言い放ちその場を退けた。

ちなみに橋本タクちゃんはハンコ屋の倅でめちゃ小さい非戦闘員である。

更にイオリは我々のテリトリーである鶴岡銀座のゲーセン”クーガー”まで進出して来たそうだ。
その時クーガーにはヘリコプターのYがいて三中生に向かって長南は何処だ?と聞きまくってるイオリ軍団にYは何故か丁寧に俺の自宅までの道のりを地図に書いて説明していたとそこでゲームをしていた別の三中生から俺に連絡があった。

マジで自宅は止めろよと思ったけど来たら来たでやるしかねぇなと思っていた。
幸い来なかったのか俺が留守してたのかは解らないが自宅が攻められる事はなかった。

翌日俺はYをぶん殴った。

この頃は放課後プロレスはやらなくなっていた。身長もだいたい今ぐらいまで伸びてべーサトも通販の効果は無かったけど身長は俺くらい。
一年生の頃と違って俺らが暴れたら家のあちこちを破壊してしまうような体のサイズになっていた。

そんな時期にユタが暴走族の従兄弟から仕入れた情報なのかカトケンがやられたと言う情報を持って来た。
カトケンは俺をターゲットにしていたくらいだから別にやられても良いのだけど相手が誰なのか気になった。

相手の男は巨漢で一発のボディブローにカトケンは沈み肋骨が折れたと。
喧嘩で骨が折れるとかまだ聞いた事がなかった。何でもその相手は一個上らしい。
その話を聞いていた皆が一個上だったら関係ないねみたいな感じでビビりながら関わらないようにしようと言う雰囲気が流れていた。
ユタがあまりにも強いと言うからこいつはヤバいと俺もそう思った。その男ジャンボと呼ばれているそうだ。

赤川の戦い

夏が終わりくらいのとある日曜日、俺はベーサトと駄菓子屋の”わたらい”にいた。
そのまま帰ろうと自転車でマツの家の納豆屋の前を通ろうとしたら納豆屋前に同級生が6、7人集まっている。皆バットを持って武装していた。

中からヤンキーのスギが出て来て「今イオリを電話で呼び出した。ちょうど良かったお前らも来い」と言う。
ユズルもいてユズルがイオリをやると言ってた。俺とベーサトには何かあった時に加勢してくれと言う話だった。

ユズルの喧嘩はあまり見た事がないけどまぁユズルだったら問題ないかと俺とベーサトも武装軍団に付いてイオリと決闘予定場所である赤川河川敷に向かった。

気になるのが集まった奴らの戦闘力の低さだった。鶴岡公園の時みたいに大群で来られたらヤバいだろうとこの時思ったけど俺とベーサトとユズルがいればなんとか大丈夫かなとか考えながらイオリを待った。

30分くらい待ったら土手の向こうから4人ぐらい歩いて来るのが解った。しかしその4人が近づくに連れて皆が戦意喪失していくのが解った。

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