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新しい概念。

 真新しい朝日が世界を照らし出す。
100人いればほとんどの人がこの朝日のことを爽やかで、心地よく、清々しいものだと表現するだろう。

朝の少し冷たい空気がまだ夏の湿気を孕んでいて、
鳥たちが囀り始める。さっきまで宇宙が目の前に広がっているような夜空があった場所には紫色からオレンジに架かるグラデーションが発現して、誰もが眠りから覚め、新しい1日を始めるにふさわしい清々しさを明確にする。

ブブーン、、、、と、遠くでバイクの音がする。
いろんな要素が合わさって、目の前の景色が晴れて朝という概念を抽出する。それは紛うことなき清廉であり、潔白である。

吸い込む空気の味が、夜のそれとは異なる。


しかし俺はこの朝を、そんなふうに迎え入れることはできなかった。
これは俺にとっての新しい概念であり、古めかしい絶望そのものだ。

昨夜遅くに、俺と仲間2人は酒を飲んで酔っ払っていた。
まるで世の中のすべての人が寝静まってしまったような静寂の中でいつの間にか道に迷って俺たちはこの住宅街の中を歩いていた。

「あっれぇ?ここどこだあ?」

仲間のうちの一人が素っ頓狂な声をあげる。
俺もそう言われてみればここがどこかわからない。
見上げてみれば星空が俺たちを嘲笑うかのように煌めいていた。

俺たちは、いわばチンピラだ。
街のクズであり、ゴミだ。
ゴミクズとしての自覚があるだけに、同じ仲間とつるんでいないと生きている価値がないことを思い出してしまって気が狂いそうになる。飲み屋で顔をみた兄ちゃんから時計と財布を奪い、実は後ろ盾にもならない組の名前を出して脅し、黙らせる。
別に警察が来たって構わない。明日の事は考えられない。
それが俺たちなのだ。

人から奪った腕時計を眺めると、夜の11時。
住宅街が静まり返るには充分深い時間といえた。

そんな時に俺の目の前に、一人の女の子が立っていることに気がついた。
彼女は身長178センチの俺よりもおそらく30センチは背が低く、俺のことを見上げながら笑っていた。その格好は、女子高生のものだ。どこの制服かは知らないが、ブレザーに短い丈のスカート。紺色のソックスと革靴。
彼女は俺たちの歩く道を通せんぼするように立ってこちらをみていた。

周りの暗闇から浮かび上がるように輝いているように見えた彼女の顔ははっきりと美しい造形だということがわかった。

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