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女神の救済。

 高橋ツトムは恋をしていた。
高校2年の秋のことだった。

空は高く、雲は徒然に流れていく。
鼻からすうっと吸い込む空気は季節の美しさをその香りに託しているようだった。見渡す限り美しい景色の中で、その分胸は苦しいほどだった。

「はー・・・。今日もあんま喋れなかったなあ・・・。」

遠藤夏菜子、という名の彼女は儚く美しい顔をした同級生だった。
顔の小ささもさる事ながら少し小悪魔的な印象もあって、何しろ高橋ツトムは心を奪われてしまっていた。


遠藤夏菜子には親友っぽく振る舞っている女の子がいた。
金村李花。李花は、遠藤夏菜子とはまた違ったタイプだが、
それでもモテにモテていた。165センチほどある遠藤夏菜子に対して少し背は低いが気の強い感じが今風で、とてもいい。セミロングの髪の毛を揺らしていつも勝気に微笑んでいる彼女のこぼれ落ちそうな大きな瞳に魅了される男子生徒もかなりの数に及ぶ。

 「まあ、日進月歩だよな。」
ツトムははあと秋風の心地いい中を1人ポツネンと帰る。
いつかは隣に遠藤夏菜子を連れて帰りたい帰り道を
ただ妄想の中でシミュレーションしつつ、今日も1人で帰る。

「ああ・・・。恋してるぜ・・・。」

虚しい独り言は、その内容を持って、一際虚しい。
高い空はまるでそんなツトムから距離を取りたいと遠ざかるようでさえあった。


ツトムにも、親友がいた。
他の高校に進学した中学からの連れは、ツトムの恋愛相談にからかい半分でよく乗ってくれる。そしてその夜もツトムは自分がいかに遠藤夏菜子のことを愛しているかを熱く語るのを、彼は電話でよく聞いてくれていた。名前は、飯田紀和と言ってほんの少しヤンチャをする程度の普通の高校生だ。

「あ、そうだツトム。その子かどうかわからんのだけど、古橋ですっげえ可愛い子がいるって噂で聞いたことあるぞ。」

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