見出し画像

志半ば。


 この会社は変わってしまった。
実はこの春で会社自体が売却されて、経営者が変わった。
我々従業員は同じ条件で残れることにはなったが、
なんとも、風土が変わってしまったように感じる。

元々はとても良心的で、ユーザーの目線に立った中古車買取、販売、整備、修理の会社だった。私も、そのほとんど採算を度外視したような良心的なサービスに惹かれて、自分もまたそうして不安なドライバーの味方になりたいと、そう願ってこの会社に入ったのだ。

勤続10年。
私も今年で32になる。

いろんなやつを見てきたが、この会社に入りたがる人間に悪い奴はいないというのはみんな共通した認識だ。
みんな清貧を地でいくような社長と、それに追従する上層部の優しい姿勢が何よりも好きだったし自分たちもそうあろうと努力した。

が、社長は春を目の前にしたある日急に倒れてしまった。
毎期決算がギリギリを浮遊する会社経営に対する心労は、
私たちにだって、察するにあまりあることだ。
そしてそれは社長にしかできないことだった。
上層部が束になって頭を寄せ合って意見を持ち寄ったところで、急速に経営状況は傾いていった。
このままでは、従業員もろとも泥舟に乗って沈むようなものだ。
という判断に至るまで、それほどの時間は必要ではなかった。
上層部は全て退任し、新しく売却した先に経営の判断を任せる形で私たちを守ってくれた。
実に、彼ららしく優しい幕引きだった。

ただ、どうして彼らが『そこ』に売却の先を決めたのかは、永遠に不明だ。

ここから先は

7,902字

¥ 2,000

読んでいただきましてありがとうございます。サポート、ご支援頂きました分はありがたく次のネタ作りに役立たせていただきたいと思います。 皆様のご支援にて成り立っています。誠にありがとうございました。