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戦場の悪魔〜エンドレスナイト〜

 頭がおかしくなりそうだった。

気がつけば男は一人で、真っ白な部屋に寝かされていた。
その部屋は途方もなく無機質で影を見つけることもできないほど味気ないただ白いだけの部屋だった。

目を開けると、ガン・・・と頭が痛む。

『あれ・・・ここ、、なんだ・・・?』

朦朧とする頭で世界を見渡す。
しかしそこにあるのは真っ白なだけの部屋。
天井がどのくらいの高さなのか、壁がどこまでなのかさえ掴めない
白に満ちた部屋だ。

男は自分の名前さえ思い出せなかった。
痛む頭を必死に宥め賺しながら、男は顔をしかめつつ上半身を起こした。
リノリウムのツルッとした床に背中が汗ばんで張り付いていた。
上半身は裸。下半身には黒いトレーニングパンツのようなものを履いていた。手でなぞるといたく違和感を覚える。自分のものではないのは明らかだ。

部屋は、暑くもなく寒くもない。
どれくらい寝転んでいたのか、汗をかいた背中だけが少しひんやりとする。

頭の痛みは立ち上がることを億劫にさせた。
しかしいつまでもこの得体の知れない場所にいるわけにはいかなかった。
とりあえず、人を呼ばないといけない。
男はそんな風に思って想定よりもずっと重たく感じる自分の体を引きずるようにして立ち上がる。

ぐるっとめまいがしてすぐに尻餅をつく。
「んああっ・・・。。。」と弱々しい声が口元から漏れて、瞬間自分のことを少し思い出す。

『ああ、確か飲み会で潰れて・・・・一人で帰ろうとしたんだ。』

それがまるで遠い昔の記憶か、もしくはついさっきのことのように思い出される。飲み会で馬鹿みたいに騒いでいた記憶が付随して想起されると、ますますこの状況の把握が難しい。

そしてまだ男は自分の名前をすら思い出すことができなかった。

男は白い床を這って、壁伝いに体を起こした。
ハアハアという情けない息切れが切迫した気持ちを増長させていくのがわかる。誰か!!誰かいませんか!!と叫んだつもりが、ヒュウウ・・・ヒュウウ・・・・という掠れた笛の音みたいな呼吸音にしかならない。
なんだよ・・・。どうなってんだ。。。。
自分の名前も思い出せない男は、やはり力尽きて膝をついてしまって、その場で蹲って動けなくなった。

顔を上げると、そこは夜の路地だった。
服は着ていない。

「え・・・?あ・・・?」

男は電信柱に寄りすがってへたり込んでいた。
道に、人通りはない。
すうっと空気を吸い込むと、夏の夜気が重苦しく肺に押し入ってくる。
体は、、、さっきほど重くない。
しかしそれでも息を切らしながら立ち上がる。
見覚えのない町を、月が高々と照らしているのを見上げる。
不思議なほど人の気配はなく、居並ぶ家々にも灯がついている気配がない。

電信柱に寄りかかっていた手を離し、塀伝いによろよろと歩き始める。
どこへ向かえばいいのか、ここがどこなのか、そもそも今がいつの夜なのかさえわからない。

そして声が聞こえた。

「ふふ、見つけちゃった。」

独り言のような、喜んだ声。
例えば狩りをするものが獲物を発見したような声だ。

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