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乱風。

「予兆」 

夜は深く、風が凪いだ瞬間だった。
ふわりと夜の匂いが目の前で立ち消えになるような、そういう感覚だ。
自分という存在さえその瞬間に許されたような不思議な、それでいて納得できる感覚。

僕はその中に立ち尽くして、ただ気配を探していた。
もう時代は令和だというのに、この宿命はずっと昔、僕らが洋服を着るよりも前からずっと続く、続き続ける因習を断ち切れない。

森の中の、ただ広い何もない場所。
上を見上げれば僕を見下ろす月がのんびりと揺れている。
ここでは、ただ緊張感が溢れている。

僕は代々その血を受け継いだ忍。
拒絶しようと反発しようと、血は争うことができない。
とはいえ忍もその勢いを失っていた。
一昔前までは政治にも芸能にも深く関わって存在していた。
が、次第に忍というものの神通力は翳りを見せて、段々と表舞台からは手を引かなくてはいけなくなった。

しかし忍の年寄衆は自分達の若かった頃の思い出に追い縋ってそれを追求してやまない。何度となく「もう時代が違うんだ」と説得しても彼らはそれを聞こうとはしない。

老害ここに極まれり、といったところだ。

そして今日、ついに僕らはクノイチ衆からの果し状を受け取ってしまった。
これは忍が彼女らの反発をもう抑えられなくなっている証拠であり、年寄衆はそんなことが起こること自体間違っていると怒り出した。
長年、彼女らを武力と政治力で抑え込んできた僕たち忍は、いつも彼女らの反発を恐れていた。

「お前が行って話をつけて来い。」

次期当主となる僕に白羽の矢が立つのは、実に理にかなっているというか。まあそりゃそうなんだろうな。ということだ。これで僕がクノイチを叩き潰しても子供の喧嘩、先走った次期当主の暴走として大人たちは処理するだろう。次期当主さえ捨て駒に使い保身に走る年寄り衆には吐き気がする。

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