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血塗れのオフィス。1

 ほとんど情けない人生だった。
中学を卒業したばかりの俺は悪い先輩について、意味もわからずいろんなことをしているうちに人の道を踏み外した。
極道、というほど格好のついたものではない。チンピラ、やくざ。そういったものの端っこに住みつくようになっていたのだ。
最初のうちは気を張っていたし、それなりにルールのある生活を営もうと試みていたが
結局自分の性分は簡単には変えられず、俺は堕落していった。
女やカタギの人間に手を出して、組には見捨てられた形だ。当たり前だ。
だが俺も生きていかなくちゃならないから、その15年ほどの経験から最も効率の良い金の稼ぎ方を導き出した。
それは子供を狙うことだ。

子供のこととなれば、親は弱い。
子供が車に傷をつけたとかどうとか言って事務所へ連れ込んで
泣かせて家に電話の一本もかけさせりゃ自分を含む仲間の5人くらいが一月遊んで暮らせるくらいの金にはなる。

何度も何度も同じようなことを繰り返していると、だんだんと手慣れてくるものだ。
今日はこれまで捕まえた子供にすれば少し大人びていた。
小学六年生くらいの女の子二人だった。
一人はとても元気そうで、ショートヘアの可愛い女の子だ。
もう一人は少しおしとやかで髪の毛も少し長め、元気なもう一人の女の子をニコニコ眺めていてとても仲が良さそうな二人だ。

「てめえ何してんのか分かってんのかコラァ!!!!」

仲間のトシキが事務所に連れ込んでソファに座らせた小学生に凄む。
話の筋は通っていないから、冷静になればこちらがおかしいことはわかるが、
子供にその判断能力はない。しかも、知らない大人に怒鳴られているうちに思考が機能しなくなるというのも実証済みだ。
トシキは女の子達の向かいに座って、思い切り睨み付ける。
ランドセルが車に当たった、というのが今回の我々の言いがかりだった。もちろん実際には当たっていないが、
これでまた一月遊んで暮らせる、という喜びが演技に拍車をかける。

「何千マンすると思ってんだよ!!お前に払えんのかよ!!!!」

トシキの声がさらに高くなる。
俺はその時に、不思議だなと違和感を感じた。
普通ならばこの辺りで怯えていた小学生は自分で抱えきれなくなって泣き出す。
泣き出したらしめたもので、電話を取り出して親に話せ、という次のステップに移ることができる。
が、今日拐かしてきた二人の小学生は一様に冷めた表情でトシキを眺めているのだ。
トシキが声を荒げようとテーブルを叩こうと微動だにしない。眉根ひとつ動かさないのだ。

おかしい。。

その時、元気そうな女の子が不意に、
「でもランドセルあたってませんよね。」
と、当然のように言った。

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