お家に帰ろう。
ここはどこだ・・・。
蓮はそんなふうに思って、ぼんやりと暗がりの天井を見つめた。
まだ小学3年生の蓮にはただ知らない場所であるということだけで十分に怯えたり恐怖する対象になり得る。
ここは、蓮の知らない場所だった。
倉庫のような高い天井。
窓の外からは絶望的な夕焼けが差し込んでいる。
自分がなぜこんなところにいるのかを思い出そうとしても、
蓮にはそれができない。なぜか、記憶が学校の帰り道の途中で断絶しているのだ。顔を顰めて、少しだけ頭の中に靄がかかったような不穏な感覚に手探りで立ち向かう。
ハタと気がつけば、蓮の両手は柱にくくりつけられていた。
無理に動こうとすれば脅しつけるように手首が痛む。
「なあに・・・ここぉ・・・・。。。。」
蓮は思っていたよりもスムーズに喉から溢れた自分のいかにも心細い声に余計不安感を煽られ、目から涙がこぼれるのを堪えきれなかった。
いつもはお家に帰る頃合いを照らし出す安心感の象徴のような夕焼けが、今日だけはやけに絶望的だ。目を合わせてはいけない化け物の視線のようで蓮は怖かった。
あっという間に夕焼けの視線は鳴りを潜めて、世界は紫色と黒の妖艶なグラデーションに落ち着いていく。普段なら外にいない時間帯であり未知の世界といってよかった。
もうすぐ夜が来る。
お母さん・・・心配してるだろうなあ・・・・。。。
蓮はそう思うと胸が苦しく、切ない気持ちになった。
でも反面、この非日常のシチュエーションにワクワクとしているのも確かだった。もしかすると仮免ライダーが助けに来てくれるのかもしれない。という夢をまだみていられる年頃だった。
ガラガラ・・・・。
と大きな音が突然した。
人だ・・・!!
蓮はその何人かの人の気配にようやく安堵をのぞかせて、
「あの・・・あのお・・・!!」と声をかけた。
「あの・・・こんにちは・・・あ。。こんばんは。。。!」
必死に話しかけると、その人の気配が優しい返事を返してきた。
「はーい、こんばんは。ご挨拶できてえらいね!」
まだ遠くてその人の顔は見えないが、蓮にもはっきりと違和感を覚えることができた。
この状況を理解している。
という、違和感。
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