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極悪少女。

 中学3年のサトルはその日、帰ってからしばらくワクワクが止まらなかった。

まるで自分の生きる意味を見出したような気になって、家に帰ってすぐに本屋さんへと飛び出して行ったほどだ。

その日は、サトルの通っている中学では「職業体験」という名目で希望者がそれぞれ見学したい職場に直接出向くというイベントがあった。
消防署や縫製工場、パン屋さん、スーパー。ちょうど午後の落ち着いた時間帯ということでその見学の受け入れ先は多種多様であった。
その中に「プロレス」というのがあった。

サトルの通っている中学の近くには、女子プロレスの道場がある。
特に目ぼしい見学先を見つけていなかったサトルと、後数人はその女子プロレスの道場への見学を希望した。

当日、サトルはその道場と言われる場所がえらく変わった場所にあることに気がついた。川沿いの土手からしばらく駅とは反対方向に進んだ場所だ。
周りには、文字通り何もない。
あるとすればこの道場で管理している畑があるくらいで、のどかな風景の中にそれほど堅牢でもなさそうな建物がポツンとある。

引率の教師も周りの友人も、サトル以外の誰もがその景色にも違和感を覚えず、その建物にも興味がなさそうだった。

晴れた、水曜日のことだ。

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