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京阪電車置石転覆事件

こんにちは。

 京阪電車と言えば、特急料金なしで豪華特急列車に乗れることが特徴的で、「2階建ての車両なのに無料?!ほんまか?」とビクビクしながら乗ったことがありますね。

 置石による最初の鉄道事故は明治時代に起きていたようですが、その100年後に日本鉄道史上、最悪の置石事故は京阪電鉄で起きたようです。いったい、置石による損害賠償がどれくらいのものとなるのかを考える上で、「京阪電車置石転覆事件」(最判昭和62年1月22日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 京阪本線の枚方市ー御殿山間で、枚方市立第一中学に通う中学生5人グループが、悪戯で線路上に大きな石を置いていたために、急行列車がそれに衝突して、先頭車両が民家に突っ込み、2両目が横転、3両目が脱線するなどして、乗客104名が負傷する大事故が発生しました。そこで、京阪電鉄は中学グループとその保護者に対して損害賠償を求めて、5人のうち4人とは1人あたり840万円を払うという示談が成立しましたが、話がまとまらなかった1人に対して、約1億1000万円の支払を求めて提起しました。

2 京阪電鉄の主張

 置石によって、我々は1億6000万円の損害を被りました。そのうち、保険金で5000万円が支払われましたが、残りの1億1000万円の支払を求めたい。
 中学生グループは、共謀して置石をしたのであり、たとえ共謀していなかったとしても同級生の普段の行動から線路上に置石行為をするかもしれないと予想できたはずなので、そのような置石行為を阻止する義務があったと言える。よって、そのような義務を怠ったことから不法行為責任は免れないはずだ。

3 中学生の保護者の主張

 息子は確かにグループのメンバーだったが、線路内に立ち入らずに、道路上から友達が線路内に立ち入り置石をする様子を見ていただけで、息子は置石をしていなかったので、損害賠償責任を負わないと思います。また息子は友達に置石をやめるように言いいましたが、置石がそのまま放置されていたために事故が発生しました。息子が友達の置石行為に加担したわけでもありません。

4 最高裁判所の判決

 中学生は、置石行為をすることそれ自体についてグループの友達と共同の認識ないし共謀がなく、また、今回の事故の原因となった置石について事前の認識がなかったとしても、友達が大阪行軌道のレール上に拳大の石を置くのを現認した時点において、同人が同一機会において大阪行軌道よりも道路に近い京都行軌道のレール上にも拳大の置石を置くこと及び通過列車がこれを踏み事故が発生することを予見することができたと認めうる余地が十分にあるというべきであり、これが認められ、かつまた、中学生において置石の存否を点検確認し、その除去等事故回避のための措置を講ずることが可能であったといえるときには、その措置を講じて事故の発生を未然に防止すべき義務を負うものというべきである。中学生が今回の事故の発生前に友達に対し置石行為をやめるように言った事実があるとしても、それだけでは直ちにその注意義務に消長を来たすものとはいえない。また、中学生の注意義務の懈怠と本件事故との間には相当因果関係があるものといわざるを得ない。
 よって、原判決を破棄し、原審に差し戻す。

5 損害抑止のための作為義務違反

 今回のケースで裁判所は、中学生の仲間による線路上への置石により生じた電車の脱線転覆事故について、置石行為をしていなくても事故回避措置をとらなかったことを理由に損害賠償責任を認めました。
 列車の脱線時には、振替輸送費や車両の修理費、被害者の治療費など損害額が莫大なものとなりますので、置石行為は絶対にしないようにしましょう。

では、今日はこの辺で、また。


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