KDDI電磁波事件
こんにちは。
海外にいる友達とスマホで通話できたり、画像などを瞬時で共有できたりすることが当たり前の世の中になっていますが、見えないところでデータは電波に乗って空を飛び、海底のケーブルで長い距離を高速で移動しています。
いまやスマートフォンの普及により、電磁波を送る携帯電話基地局も必要不可欠なインフラとなっています。
しかし、この携帯電話基地局から発せられた電磁波によって健康被害を受けたという裁判も起きています。一体、どのような問題があったのかを考える上で、今日は「KDDI電磁波事件」(福岡高判平成26年12月5日TKCローライブラリー)を紹介したいと思います。
1 どんな事件だったのか
KDDI株式会社は、宮崎県延岡市にある3階建てマンションの屋上に、携帯電話基地局を設置し、運用していました。あるとき、その周辺住民から耳鳴りや鼻血が出るとの苦情がありましたが、KDDI側は携帯電話基地局設置後に、住民たちにそのような内容・程度の症状が出たのかが疑わしいとして取り合いませんでした。
そこで周辺住民たちは、携帯電話基地局から放射される電磁波により健康被害が生じていることを理由に、人格権侵害に基づいて携帯電話基地局の操業停止を求めて提訴しました。
2 周辺住民の主張
わてらの住んでる地域に、あの携帯電話基地局ができてからは、耳鳴りや頭鳴りがひどく、中には止まらない鼻血を出しているもんもおるんや。けどな、基地局から遠ざかると不思議に耳鳴りなどがピタリとおさまるんや。
やけん、九州大学の教授に基地局周辺の電磁波の測定を行ってもろたら、周辺の電磁波の強度が他の地点と比較して異常に強く、高頻度のパスル派として最高値レベルの強度が発せられているちゅうんや。お医者さんも、電磁波過敏症やと診断しているんや。このことから、わてらの健康被害と電磁波との間に密接なつながりがあることは明らかや。
3 KDDI側の主張
住民等が主張する様々な症状が、携帯電話基地局から発射される電波が引き起こしているという因果関係は、明らかに存在しません。なぜなら、住民等が主張する症状には明らかな誇張があることから、実際には存在しないか、または基地局から発射される電波とは別の原因によって生じているからである。頭痛、耳鳴り、めまい、肩こりなどの症状については、国民の多くが悩まされている症状であり、これらの症状が携帯電話基地局設置後に初めて発生し、それまではそのような症状がまったくなかったということは、逆に不自然と言うべきである。また、医療機関で診断、治療を受け、これを継続するという姿勢も見られないではないか。
また、電波防護基準値内における電波は、周辺住民の健康に何ら悪影響を及ぼすものではなく、とくに電磁波過敏症と電波との間に因果関係を示す科学的根拠が存在しないことは、国際専門機関の現時点における一致した結論である。なので、我々には責任がないはずです。
4 福岡高等裁判所の判決
電磁波による健康被害を肯定する研究論文や調査報告については、これらの調査研究の方法や論文の内容の偏りを批判する指摘もあり、未だ、電磁波による健康被害について確立した科学的、医学的知見の存在を認めることはできない状況にあることが認められる。長期的な電磁波への曝露によって、人体の健康への影響が生じうるかの研究報告は近時WHO等でも取上げられているが、証拠はあくまで限定的で、未だ研究途上であり、現段階ではさらなる研究が必要であることを指摘するにとどまっている。
そうすると、すべての証拠に照らしても、基地局から発せられた電磁波が周辺住民らの健康被害を生じさせているという事実について、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうる程度の高度の蓋然性をもって証明されたと認めることはできない。
よって、住民等の請求を棄却する。
5 周辺住民の敗訴確定
今回のケースで裁判所は、携帯電話基地局から発射された電磁波と、周辺住民に生じている耳鳴りや鼻血などの健康被害との間に、因果関係がないとして、周辺住民の請求を棄却しました。
最高裁でも住民側の上告が棄却され敗訴が確定していますが、判決の中では周辺住民に健康被害が生じていることは認められました。今後も、増大するデータ通信量に対応するために携帯電話基地局の建設が続きますが、それとともに基地局周辺の住民の健康被害について世間の関心が集まる可能性もあるでしょうね。
では、今日はこの辺で、また。
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