見出し画像

グルニエ・ダイン事件

 こんにちは。

 ポーランドに「逆さの家」という珍しい建物があるのですが、調べてみたところ、あっちこっちに逆さまハウスがあると知って驚いた松下です(そこまで需要があったのか!)。

 さて今日は、建物に著作権が認められるかどうかが問題となった事件(大阪高判平成16年9月29日著作権法判例百選[第4版]16頁、大阪地判平成15年10月30日判例時報1861号110頁)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったか

 積水ハウスは、高級注文住宅「グルニエ・ダイン」を開発し、平成10年度にはグッドデザイン賞を獲得して、住宅を販売していました。ところが、サンワホームも、似たような外観をした建物を展示していたことから、積水ハウスはサンワホームに対して、著作権法112条違反を理由に建築の差し止めと、民法709条に基づく損害賠償を請求したのです。

【著作権法10条1項】
 この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。
五 建築の著作物
【著作権法112条1項】
 著作者、著作権者、出版権者、実演家又は著作隣接権者は、その著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
【民法709条】
 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

2 積水ハウスの主張

 グルニエ・ダインは、平成10年度のグッドデザイン賞を受賞しましたが、その理由は、建物の玄関側の外観に優れたデザイン性があることによるものです。審査基準にも「美しさがある」ことや「独創的である」ことなどがありました。なので、グルニエ・ダインは建築芸術と評価されるもので、建築の著作物に当たるはずです。グルニエ・ダインとよく似たサンワホームの建物は、グルニエ・ダインを複製又は翻案したものと考えられますので、著作権を侵害していると言えるのではないでしょうか。

3 サンワホームの主張

 そもそも「建築の著作物」は、宮殿、城、寺院、凱旋門、塔など、建築美を創造的に表現する建築芸術に限られているはずです。そう考えると、通常のビルや住居などの建物は、「建築の著作物」には当たらず、私どもは著作権を侵害していないはずです。

4 判決内容

 東京高等裁判所の裁判長は「一般住宅が著作権法10条1項5号の『建築の著作物』であるということができるのは、客観的、外形的に見て、それが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り、居住用建物としての実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となり、建築家・設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感得せしめるような造形美術としての美術性を備えた場合と解するのが相当である。今回、問題となったグルニエ・ダインは造形美術としての美術性を具備しているとはいえない。よって、損害賠償請求などは認められない」と判断しました。

5 著作権以外の権利に注意

 住宅のような一般的に販売される建物は著作物にあたらないというのが裁判所の判断なのですが、著作権以外の権利によって建物のデザインが保護されることがあります。

 例えば、東京スカイツリーは、その名称、ロゴ、シルエット、立体形状などが商標として登録されています。また意匠法の改正により、これまで保護されなかった建築物の外観・内装のデザインが保護されるようになっています。これらの権利を侵害しないように注意しましょう。

では、今日はこの辺で、また。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?