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こんにちは。

 建築の仕事のやりがいは、自分の作品が地図や世の中に残ることと言われていますが、この「地図に残る仕事。」というキャッチコピーは大成建設株式会社のものだったと知って驚きましたね。

 さて今日は、建設工事を請け負った会社に対して代金が支払われないということが問題となった「松村組事件」(東京高判平成14年2月5日判例時報1781号107頁)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 株式会社ヒルズから、マンションの建築を請け負った株式会社松村組は、請負代金を払ってもらうまで、マンションの11室を留置していました。その後、ヒルズからマンション購入希望者に物件を案内するために鍵を貸して欲しいと依頼されたので、松村組は3本あった鍵のうち1つをヒルズに貸し出
しました。すると、ヒルズからマンション販売を委託されていた菱和ハウス株式会社が、野崎章正らにマンションの部屋を販売して、その各部屋に居住させていました。そのため、松村組は占有権に基づいて野崎らに対して部屋の返還を求めました。

2 松村組の主張

 野崎らは、我々が留置していたマンションの部屋の鍵を交換して勝手に占拠している。これは、自救行為にあたるので、許されない。確かに我々は、マンションの部屋の3本の鍵のうち1本をヒルズに貸したが、ヒルズからマンションの分譲販売の委託を受けていた菱和ハウスは、ヒルズのマンションを自己の物件として偽って売却し、売買代金を払えば所有権を取得できるものと期待を抱かせていただけだ。私どもは占有権に基づいて部屋の明け渡しを求める。

3 野崎らの主張

 わてらは、マンションに松村組の留置権があるとは知らなかった。マンションの顧客向けのパンフレットに留置権を有する旨を公示するなどということは、現実離れした観念論にすぎず、この業界ではあり得ないことである。我々は売買代金を支払い、しかも所有権保存登記を受けているので、部屋の正当な所有者だ。

4 東京高等裁判所の判決

 松村組は、本件各室の各1本の鍵をヒルズに交付することによって、本件各室に対する独占的な地位を自ら放棄し、鍵を独占することによってのみ守り得た権利を失ったというべきである。すなわち、松村組がヒルズに鍵1本を交付したことによって、その留置権は対外的な効力を失ったと解するのが相当である。
 こうした中、野崎らは、松村組が留置権を有することを知らずに本件各室を購入し、その代金も支払って所有権を取得したのである。そうすると、野崎らが松村組によって新たに設置された鍵を取り替えて、本件各室に入居したとしても、直ちに松村組の占有を保護すべきであるとは
いえない。すなわち、松村組よりも、本件各室を一般の顧客として購入取得した野崎らを保護するのが妥当というべきである。そうすると、野崎らは、所有権に基づいて、本件各室の鍵を取り替えて、本件各室に入居したのであるから、松村組が占有権に基づいて占有回収請求をしても、これによって野崎らの本権に基づく占有を転覆させるのは信義則上相当でないというべきである。
 よって、松村組の控訴を棄却する。

5 占有の喪失による留置権の消滅

 今回のケースで裁判所は、留置権者が自ら留置しているマンションの建物の鍵を相手に渡した場合には、留置権の対外的な効力が失われるとして、留置権者の占有権に基づく返還請求を棄却しました。
 留置権者が、マンションの一室の鍵を渡して占有を失うと留置権が消滅してしまうことに十分に注意する必要があるでしょうね。

では、今日はこの辺で、また。 


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