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脱ゴーマニズム宣言事件

こんにちは。

 最近、ゴーイングマイウェイに拍車がかかって、ひたすら読者を置いてけぼりにしている松下ですが、言葉の響きからマイペースという表現よりも胸を張れそうな気がしています。

 さて、今日は「脱ゴーマニズム宣言事件」(東京高判平成12年4月25日判例時報1724号124頁)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 上杉聡さんは『脱ゴーマニズム宣言 小林よしのりの「慰安婦」問題』というタイトルで書籍を出版し、小林よしのりさんの『ゴーマニズム宣言』で描かれたマンガの57カットを引用していました。上杉さんは引用する際に、HIV訴訟の代表川田さんの似顔絵の両目部分に黒い目隠しをしたり、マンガのコマの配置を変えていたりしていました。この点について小林さんが、「私の作品を無断で複製し、また改変をすることで同一性保持権の侵害をしている」と主張して、上杉聡さんと出版社を相手に、書籍の出版の差止めと損害賠償を請求しました。

2 小林よりのりさん側の主張

 批評をするのなら、マンガの文字部分だけを引用すればよく、絵の部分まで引用する必要はないはずた。また登場人物の目に黒線を入れたり、創意工夫を凝縮させたコマ割りを勝手に改変されるのも困ります。著作権法上の複製権や同一性保持権の侵害に当たるのではないでしょうか。

【著作権法21条】
著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。
【著作権法20条1項】
著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。

3 上杉聡さん側の主張

 著作権法上は、公表された著作物は引用することができますので、違法ではありません。

【著作権法32条1項】
公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

 また、マンガの登場人物の目に黒線を入れたのは、小林氏がマンガによって登場人物の肖像権や名誉権を侵害していたので、やむを得ずに行いました。紙面の都合によりマンガのコマを移動させましたが、これでマンガの内容が変化するとは思えません。著作権法上もやむを得ない改変が認められているので、違法ではないと思います。

【著作権法20条2項4号】
 前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する改変については、適用しない。 
4 前三号に掲げるもののほか、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変

4 東京高等裁判所の判決

東京高等裁判所の裁判長:「目隠しによる改変は、似顔絵の本人がこれを見れば不快に感じる程度に醜く描写されており、同人の名誉感情を侵害する恐れが高いため、やむを得ないと認められる改変に当たる。しかし、漫画のカットの配置を変更したのは、小林氏の表現を不当に軽視したものであるので、やむを得ない改変には当たらない。よって、本件書籍の差止めと慰謝料20万円の支払を命じる」。

5 マンガの引用

 今回の判決では、自分の作品と関連して、サブ的に他のマンガを引用することが認められました。その際には、著者名、作品名、出版年、ページなどを明記することが必要です。ただし、引用が認められても、同一性保持権の侵害となりうる場合もあると言えそうです。引用の際には十分に気をつけましょう。

 では、今日はこの辺で、また。


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