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小樽種痘禍事件

こんにちは。

 江戸時代には数年に1度、天然痘が流行っていたようなのですが、1796年にイギリス人の医者ジェンナー先生によってワクチンが開発され、やがて日本でも導入が始まり、すでに接種証明もあったと知って驚きましたね。

 今日は、天然痘のワクチン接種が問題となった「小樽種痘禍事件」(最判平成3年4月19日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 北海道小樽保健所で行われた集団種痘接種で、0歳の男の子が接種後、9日たってから急に40℃近い高熱が出て、12日目から下半身麻痺など重篤な後遺障害が残りました。そのため、両親が国や製薬会社に対して約6232万円の損害賠償を求めて提訴しました。

2 両親の主張

 保健所の医師は、種痘を実施するにあたり、問診、視診、聴打診など、息子の健康状態を十分に確認し、忌避者に該当する場合には種痘を行わないようにする義務があったのにこれを怠った。昭和31年以降、天然痘患者はいなくなったが、種痘による死亡者は毎年10名前後おり、国は種痘制度を改善すべき義務があったにもかかわらず、これを怠った。よって、国は国家賠償法1条1項に基づいて損害を賠償すべき義務がある。

3 国側の主張

 お子さんの病状経過は、種痘後脳炎とは著しく異なり、脊髄出血であって、種痘とは直接の因果関係はない。また予防接種の実施にあたっては、接種会場内の壁に「予防接種のお知らせ」という掲示をし、忌避者について周知徹底したうえ、看護師が忌避事由がないかを質問していたので、問題はなかった。

4 最高裁判所の判決

 予防接種によって重篤な後遺障害が発生する原因としては、被接種者が禁忌者に該当していたこと又は被接種者が後遺障害を発生しやすい個人的素因を有していたことが考えられるところ、禁忌者として掲げられた事由は一般通常人がなり得る病的状態、比較的多く見られる疾患又はアレルギー体質等であり、ある個人が禁忌者に該当する可能性は個人的素因を有する可能性よりもはるかに大きいものというべきであるから、予防接種によって後遺障害が発生した場合には、当該被接種者が禁忌者に該当していたことによって後遺障害が発生した高度の蓋然性があると考えられる。
 したがって、予防接種によって後遺障害が発生した場合には、禁忌者を識別するために必要とされる予診が尽くされたが禁忌者に該当すると認められる事由を発見することができなかったこと、被接種者が個人的素因を有していたこと等の特段の事情が認められない限り、被接種者は禁忌者に該当していたと推定するのが相当である。
 予防接種を実施した医師が禁忌者を識別するために必要とされる予診を尽くしたかどうか等を更に審理させる必要があるので、本件を原審に差し戻す。

5 副作用が出た場合に忌避者であると推定

 今回のケースで裁判所は、集団種痘接種で重篤な後遺障害が発生したときに、予診不足と後遺障害との間に因果関係が認められないとして請求を却下した原審の判断を破棄し、予診不足で忌避者であることが看過されていたとして、原審に差し戻しました。
 予防接種と後遺障害との関係について、予診を十分に行ったかどうかの証明責任を医師側に転換し、それが十分でないなら相当因果関係が肯定されるという理論については、議論の余地が残されていますね。

では、今日はこの辺で、また。


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