ギャロップレーサー事件
こんにちは。
ファミコンのソフト「ファミリースタジアム'88」では、選手の実名が使われておらず、篠塚は「しのつた」、原は「はり」、清原は「きよすく」、駒田は「こめだ」、桑田は「くわわ」、槇原は「まきはは」という名前が使われていました(私なら「まきはは」じゃなくて「まきはま」にするって、小学生の時に言ってたなあ)。
さて、今日は「ギャロップレーサー事件」(最判平成16年2月13日民集58巻2号311頁)を紹介したいと思います。
1 どんな事件だったのか
テクモ株式会社(現・コーエーテクモゲームス)は、「ギャロップレーサー」「ギャロップレーサー2」という人気競馬ゲームを販売していました。そのゲームの中では、「ホクトベガ」、「ライスシャワー」、「オグリキャップ」、「ナイスネーチャ」、「ビワハヤヒデ」、「トウカイテイオー」、「ナリタブライアン」など超有名馬の名前が使われていました。
しかしテクモは、そのゲームを販売する際に、あらかじめ馬主らに競走馬の名称について使用許諾を得ていませんでした。そのため、馬主らが競走馬の名称等が有する顧客吸引力などの経済的価値を独占的に支配する権利(パブリシティ権)を侵害しているとして、「ギャロップレーサー」「ギャロップレーサー2」の製作、販売等の差止めと民法709条に基づく損害賠償を請求しました。
2 馬主たちの主張
パブリシティ権の対象は人に限定されるものではなく、競走馬の名前にもパブリシティ権があるはずです。そうすると、競走馬の所有者である馬主にはパブリシティ権が認められることになります。テクモは、競走馬の名前をつかってゲームソフトに商品価値を付加して、販売を促進しているので、馬主のパブリシティ権を侵害しています。
3 テクモ側の主張
パブリシティ権は、著名人がその氏名、肖像から生じる顧客吸引力の持つ経済的利益や価値を排他的に支配する財産的権利であり、人ではない馬の名前について、パブリシティ権は発生しないはずです。
馬の名前に関する権利について、登録制度もないので、それを所有権とは別に存在するものとすると、第三者が権利の帰属主体を覚知することが困難となります。また馬の名前に何らかの権利が認められるとしても、それはあくまで所有権に付属する範囲で認められ、競走馬が死亡した場合や譲渡等により、所有権が消滅した場合には、その権利も同時に消滅するはずです。ライスシャワーはギャロップレーサー2の発売前に死亡し、馬主らの所有権は失われているので、パブリシティ権が存在しておりません。また、G1レースの勝ち星が1つもない馬には顧客吸引力はないと思います。
4 最高裁判所の判断
最高裁は「競走馬の名称等が顧客吸引力を有するとしても、物の無体物としての面の利用の一態様である競走馬の名称等の使用につき、法令等の根拠もなく競走馬の所有者に対し排他的な使用権等を認めることは相当ではなく、また、競走馬の名称等の無断利用行為に関する不法行為の成否については、違法とされる行為の範囲、態様等が法令等により明確になっているとはいえない現時点において、これを肯定することはできない」として、馬主側の請求を認めませんでした。
5 物のパブリシティ権
最高裁判所は、物のパブリシティ権にはそれを明確に保護するという法律がないことについても言及しています。仮にパブリシティ権を明文化しようとすると、スポーツ新聞などで野球選手の氏名や戦績を掲載したり、競走馬の名前で戦績を掲載することが「パブリシティ権の侵害」となってしまうのかという問題が新たに生じるかもしれませんね。
この点については引き続き、注目していきたいと思います。
では、今日はこの辺で、また。
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