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内縁の妻の居住権事件

こんにちは。

 今日は、内縁の妻に対して相続人が家からの退去を求めたことが問題となった最判昭和39年10月13日を紹介したいと思います。



1 どんな事件だったのか

 昭和21年に森下蛍子は、森下光繁とハツヨ夫妻の養子になりました。森下ハツヨの妹だった松本ミヨシは、昭和19年に夫の正が戦死して、寡婦になり、4人の子どもを育てていました。ハツヨが亡くなると、松本ミヨシは、森下光繁の内縁の妻として、子どもたちと共に光繁の所有する建物に住んでいました。一方で、蛍子と光繁との関係は悪化し、親族会議の結果、蛍子と離縁することになりましたが、光繁が長年の愛情を断つこと躊躇していた矢先に、死亡してしまいました。すると蛍子が父光繁の所有する建物を相続することになったことから、松本ミヨシに対して建物の明渡しを求めて提訴しました。

2 最高裁判所の判決

 森下蛍子および松本ミヨシ間の身分関係、本件建物をめぐる右両者間の紛 争のいきさつ、右両者の本件建物の各使用状況およびこれに対する各必要度等の事情につき、原審がその挙示の証拠により確定した事実関係に照らせば、松本ミヨシに対する森下蛍子の本件建物明渡請求が権利の濫用として許されない旨の原審の判断は、正当として肯認するに足りる。
 原判決中の、森下蛍子が本件建物を独占して使用することが相当と認められるまで双方共に本件建物に同居すべきである旨の判示は、原審が、森下蛍子の本件建物明渡請求が権利の濫用として許されない旨を判断するにあたり、傍論として記載したにすぎないものであつて、論旨のように、森下蛍子に対し松本ミヨシと同居する法律上の義務を負担させ、または内縁の寡婦と死亡した内縁の夫の子との間に法律上の同居義務を創設するわけのものではない。論旨は、原判決を正解しないで、その傍論的記載を非難するに帰するものであつて、採用し得ない。
 原審が、本訴請求を権利の濫用として許されない旨判断したからといつて、松本ミヨシが本件建物に居住しうる権利を容認したものとはいえない。従って、松本ミヨシの主張のような居住権が認められない旨の原審の判断は、森下蛍子の本訴請求が権利の濫用として許されない旨の判断となんらそごするものではないから、論旨は採用し 得ない。
 よって、森下蛍子の上告を棄却する。

3 内縁の妻に対する明渡請求と権利濫用

 今回のケースで裁判所は、内縁の夫の死亡後に、その所有家屋に居住する寡婦に対して亡夫の相続人が家屋明渡請求をした場合、その相続人が亡夫の養子であり、家庭内の不和のため離縁することに決定していたが、戸籍上の手続をしないうちに亡夫が死亡したものであり、また、その相続人が当該家屋を使用しなければならない差し迫った必要性がないにもかかわらず、また寡婦の側では、子どもがまだ独立して生計を営むにいたっておらず、家屋を明け渡すと、家計上相当重大な打撃を受けるおそれがあるなどの事情があるときは、明渡請求は、権利の濫用にあたり許されないものと解すべきである、としました。
 内縁の夫が亡くなり、それまで平穏に暮らしていた内縁の妻がいきなり部屋を出ていかないといけなくなるという事態を避けるために、裁判所は権利の濫用を使って一時的に内縁の妻を保護しましたが、事前に内縁の夫が内縁の妻に対して遺言によって建物を遺贈しておくことで、トラブルを事前に避けることができるということも知っておくと良いでしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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