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NHK受信料支払拒否事件

こんにちは。

 NHKと言えば、大河ドラマ「真田丸」が好きで、関ヶ原の戦いで真田家を存続させるためにと、兄弟が東西に分かれて戦ったシーンに心を打たれましたが、真田家以外に前田家の利長と利政兄弟も、東西に別れて戦っていたことから、お家存続のために様々な策略が用いられていたのだと知りましたね。

 さて今日は、NHKの受信料の支払を拒否するために、さまざまな策略が用いられた「NHK受信料拒否事件」を紹介したいと思います。

【放送法64条1項】
協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。

1 ウィークリーマンション事件

NHK受信料拒否者の主張:わしゃ、レオパレスが貸し出していた家具家電き賃貸物件に入居して、NHKに受信料を払ってきたけど、これはレオパレス側がテレビを勝手に置いてただけで、わては放送法64条1項の「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」やあらへんで。だから、これまで払った1310円を返してんか!

東京高判平成29年5月31日(裁判所ウェブサイト):「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」とは、受信設備を物理的に設置した者だけでなく、その者から権利の譲渡を受けたり承諾を得たりして、受信設備を占有使用して放送を受信することができる状態にある者も含まれると解される。レオパレスによって設置されたテレビジョン受信機付きの物件を借りてこれを占有使用して、NHKの放送を受信し得る状況を享受する者であるから、設置者の承諾を得て受信設備を占有使用して放送を受信することができる状態にある者であり、放送法64条1項の「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」に該当する。よって、受信料拒否者の請求を棄却する。

2 受信契約の未承諾事件

NHK受信料支払拒否者の主張:自宅にテレビを置いたが、受信契約の申込みについて承諾した覚えがない。そもそも放送法64条1項は訓示規定であって、NHKとの受信契約の締結を強制できるわけではない。もし強制できるとすると、インターネットだけを利用したいと考えている者に対しても受信契約を求めることになるので、幸福追求権を定めた憲法13条、知る権利を定めた21条、国が国民の財産権を侵害しないと定めた憲法29条に違反するのではないか。

最大判平成29年12月6日(裁判所ウェブサイト):放送法64条1項は、受信設備設置者に対し受信契約の締結を強制する旨を定めた規定であり、NHKからの受信契約の申込みに対して受信設備設置者が承諾をしない場合には、NHKがその者に対して承諾の意思表示を命ずる判決を求め、その判決の確定によって受信契約が成立すると解するのが相当である。
 放送法64条1項は、同法に定められたNHKの目的にかなう適正・公平な受信料徴収のために必要な内容の受信契約の締結を強制する旨を定めたものとして、憲法13条、21条、29条に違反するものではないというべきである。
 受信契約の申込みに対する承諾の意思表示を命ずる判決の確定により同契約が成立した場合、同契約に基づき、受信設備の設置の月以降の分の受信料債権が発生するというべきである。よって、原告の請求を棄却する。

3 ワンセグ放送事件

NHK受信料支払拒否者の主張:俺はテレビを見るためにワンセグ放送対応の携帯電話を買ったわけでもないし、携帯電話でテレビを見たこともない。なのに、放送受信契約をする必要があるっておかしいやろ。無理矢理、受信契約を締結させられたから、これは錯誤により無効ではないのか。だから、支払った受信料1310円を返せ。

東京高判平成30年3月22日(裁判所ウェブサイト):ワンセグ放送対応の携帯電話機が未だワンセグ放送を「あまねく日本全国において受信できる」状況にないとしても、ワンセグ放送を受信することが可能な地域に居住する等し、ワンセグ放送対応の携帯電話機を所持することによりNHKのワンセグ放送を受信することのできる環境にある者についてまで、「設置」の意義を限定することにより、規定を適用しないという解釈をすべき理由はない。原告の自宅は、ワンセグ放送の受信可能地域にあることが認められるのであり、ワンセグ放送対応の携帯電話機でNHKのワンセグ放送を受信することができない状況にあることをうかがわせる証拠はなく、そのような状況にあるとも考え難い。よって、原告の請求を棄却する。
 

4 東横イン事件

東横インの主張:これまでNHKさんは、ホテル1棟につき1台分の受信料しか請求してこなかったじゃないか。なのに、いきなり全室分の受信料を払えって、そんな殺生な。調査をすれば全室にテレビが設置されていることがわかったはずなのに、放送受信契約を締結せず、放送受信料の徴収も行わないといったように、放送受信料の免除をしてきたのではないでしょうか。

東京高判平成30年9月20日(裁判所ウェブサイト):NHKはホテルに設置された受信機全数について放送受信契約を締結することを強く求め、東横インがこれに応じない場合には、法的措置も辞さないといった強い態度で臨んでいたのであるから、放送受信契約締結率を向上させるために、放送法上許容されていない受信契約締結等義務の免除といった格別の便宜を東横インに図る必要があったとは認め難いところである。東横インは、それぞれ運営するホテルの客室等合計3万4426か所に設置した衛星受信機について、平成24年1月から平成26年1月までの期間における放送受信料合計19億2932万1040円の支払義務を負う。

5 イラネッチケー事件

NHK受信料拒否者の主張:私は、筑波大学の先生が開発したNHKの放送の信号をカットするフィルター、イラネッチケーをテレビに取り付けていたので、NHKの放送を見ることができませんでした。また、このフィルターは、テレビを破壊することなく取り外すことができないため、テレビに受信設備があるとはいえないはずです。なので、裁判所にNHKとの受信契約がないことの確認を求めます。

東京高判令和3年2月24日(裁判所ウェブサイト):放送法64条1項の「協会の放送を受信することのできる受信設備」とは、NHKのテレビジョン放送を受信することのできる受信機としての機能を有する設備と解され、仮に同機能を有するテレビジョン受信機にNHKの放送のみを受信することを不可能にする付加機器を取り付けるなどして、NHKの放送を受信することができない状態が殊更に作出されたとしても、当該付加機器を取り外したり、当該付加機器の機能を働かせなくさせたりすることにより、NHKの放送を受信することのできる状態にすることができる場合には、その難易を問わず、当該テレビジョン受信機はその機能を有するものとして、放送法64条1項所定の受信設備と解するのが相当であり、これを設置した者は同項所定のNHKの「放送を受信することのできる受信設備を設置した者」に当たるというべきである。よって、原告の請求を棄却する。

6 NHK受信契約と契約の自由

 法律の世界では「契約自由の原則」、すなわち契約を締結するかしないかの自由、契約の相手方を選択する自由、契約内容の自由、契約の方式の自由があるのですが、NHKの受信契約が強制されるとなるとこれらの自由が侵害されるのかどうかが問題となりました。この点について裁判所は、放送法64条1項がNHKの目的にかなう適正・公平な受信料徴収のために必要な内容の受信契約の締結を強制する旨を定めているとして、憲法に違反しないとしました。
 NHKの受信料をめぐる問題についてはまだまだ議論が続いていますので、今後の展開に注目しながら、さらに解説していきたいと思います。

では、今日はこの辺で、また。


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