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婚外子相続分規定違憲事件

こんにちは。

 法律用語は難しいと言われるのですが、その中でも嫡出子と非嫡出子も、その1つと言えるでしょう。むっちゃくちゃ簡単に言うと、結婚している夫婦間の子どもが嫡出子で、そうでない子が非嫡出子と呼ばれています。

 さて以前に、嫡出子と非嫡出子との間に相続できる財産に差があったことが問題となった「婚外子相続分規定違憲事件」(最大決平成25年9月4日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 平成13年7月25日に、東京都に住む男性が約3億3000万円を残して死亡しました。男性には、妻との間の子が3人(嫡出子)、妻以外の女性との間に子どもが2人(非嫡出子)いました。その後、妻も亡くなったため、当時の法定相続分に従うと、嫡出子にあたる子らはそれぞれ約9600万円ずつ相続することになりました。これに対して、非嫡出子にあたる子らは約2400万円ずつ相続することになり、しかも2400万円分の生前贈与を受けていたため、実質的には相続できる額が0円となっていました。これに納得がいかなかった非嫡出子たちは家庭裁判所に対して、平等な遺産分割の審判を申し立てました。

2 非嫡出子側の主張

 私たちが生まれたことについて、責任があるのは亡き父であるはずなのにに、なぜ私たちが不利益を被らないといけないのでしょうか。しかも、非嫡出子という身分は、私たちの自らの意思や努力によっても変えることはできないのです。憲法14条1項にも「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」とあるので、私たちが遺産分割で法律上の差別を受けるのはおかしいと思います。

3 嫡出子側の主張

 民法900条4号但書前段では、非嫡出子の相続分は嫡出子の相続分の2分の1にすると書いています。平成7年に最高裁判所大法廷でも、法律上の配偶者との間に出生した嫡出子の立場を尊重するとともに、非嫡出子の立場も配慮して、非嫡出子に嫡出子の2分の1の法定相続分を認めることで、非嫡出子を保護しています。そもそもこれは、法律婚を重視する民法という法律で決まっていることなので、そこには国民の合意があるはずです。もし非嫡出子に多くの財産を相続させたいのであれば、遺言書を用いればよいのではないでしょうか。

4 最高裁判所の決定

 民法900条4号ただし書きの合理性に関連する以上のような種々の事柄の変遷等は、その中のいずれか1つを捉えて、本件規定による法定相続分の区別を不合理とすべき決定的な理由とし得るものではない。しかし、昭和22年民法改正時から現在に至るまでの間の社会の動向、我が国における家族形態の多様化やこれに伴う国民の意識の変化、諸外国の立法のすう勢及び我が国が批准した条約の内容とこれに基づき設置された委員会からの指摘、嫡出子と嫡出でない子の区別に関わる法制等の変化、更にはこれまでの当審判例における度重なる問題の指摘等を総合的に考察すれば、家族という共同体の中における個人の尊重がより明確に認識されてきたことは明らかであるといえる。そして、法律婚という制度自体は我が国に定着しているとしても、認識の変化に伴い、現状の制度の下で父母が婚姻関係になかったという、子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず、子を個人として尊重し、その権利を保障すべきであるという考えが確立されてきているものということができる。
 以上を総合すれば、遅くともAの相続が開始した平成13年7月当時においては、立法府の裁量権を考慮しても、嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する合理的な根拠は失われていたというべきである。
 したがって、民法900条4号の規定は、遅くとも平成13年7月当時において、憲法14条1項に違反していたものというべきである。
 よって、原決定を破棄し、東京高等裁判所に差戻す。

5 数少ない違憲判決

 平成7年の最高裁判所大法廷は、非嫡出子の相続分が嫡出子の半分であることについて「法律婚の尊重と非嫡出子の保護を図っており、合理的な根拠がある」として憲法に違反していないとしていたところを、今回の大法廷では14名(1名は辞退)全員一致で違憲であるとしました。その後に民法も改正されて、現在では嫡出子と非嫡出子との間に相続分の差はありません。
 最高裁が違憲判決を下した数少ない事例として、知っておいてもらえれば幸いです。
 では、今日はこの辺で、また。

 


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