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離婚慰謝料請求事件

こんにちは。

 なぜ、人は他人の不倫を裁きを与えたいのか。たとえ他人をバッシングしても、自分の給料が1円も上がらないのになぜここまで加熱するのか。

 脳科学者の中野信子さんによると、結論として社会正義を行っているという錯覚を得られて、喜びが大きいということに行き着くようですね。
 さて法律の世界では、不倫はお金で解決する民事責任の問題とされています。少し細かい話ですが、不倫が原因で離婚せざるを得なくなった場合に、不倫相手に対して慰謝料を請求できるのかどうかが問題となった「離婚慰謝料請求事件」(最判平成31年2月19日裁判所ウェブサイト)を紹介しながら、離婚慰謝料と不貞慰謝料の問題について解説してみたいと思います。

1 どんな事件だったのか

 ある夫婦には2人の子どもがいましたが、夫は仕事のため帰宅しないことが多々ありました。妻は勤務先で知り合った男性と不倫関係に陥るのですが、すぐさま夫はその事実を知ることになります。一旦、勤務先の男性と妻との不倫関係は解消されたのですが、4年後に長女が大学に進学したタイミングで、再び不倫関係となり、妻は家を出て夫と別居するようになりました。仕方なく夫は、横浜家庭裁判所川崎支部に離婚調停を申し立てて、妻との離婚調停が成立しました。
 元夫は、元妻の勤務先の男性の不貞行為により離婚せざるを得なくなったとして、勤務先の男性に対して不貞行為が原因で離婚に至ったことに対する慰謝料の支払いを求めて提訴しました。

2 元夫の主張

 勤務先の男性と妻との不倫により、私は離婚せざるを得なくなりました。私は離婚により多大な心の傷を負いました。この点について、過去の最高裁の判決では、配偶者の不倫で精神的苦痛を被ったときに、その不倫相手に対して慰謝料の請求が認められてきました。なので、不倫相手である勤務先の男性に慰謝料の支払いを求めます。

3 勤務先の男性の主張

 通常、不倫関係の事実により心にキズを負ったことについて慰謝料を求めるには、不倫関係を知ったときから、3年以内に請求する必要があるはずです。しかし、すでに不倫の事実が発覚してから4年以上経過しているので、時効により不法行為責任を負わないことになるはずです。元旦那は、民法上の消滅時効制度をくぐり抜けるために、不貞行為によって離婚せざるを得なくなったことを理由とする不法行為責任を追及しているだけなので、そのような請求は認められないと思います。

4 最高裁判所の判決

 夫婦の一方は、他方に対し、その有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由としてその損害の賠償を求めることができるところ、今回の事件では夫婦間ではなく、夫婦の一方が、他方と不貞関係にあった第三者に対して、離婚に伴う慰謝料を請求するものである。
 夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は、これにより夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても、夫婦の他方に対し、不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして、直ちに、夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはないと解される。第三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは、第三者が、単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず、夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られるというべきである。
 以上によれば、夫婦の一方は、他方と不貞行為に及んだ第三者に対して、特段の事情がない限り、離婚に伴う慰謝料を請求することはできないものと解するのが相当である。
 勤務先の男性は、元夫の妻と不貞行為に及んだものであるが、これが発覚した頃に妻との不貞関係は解消されており、離婚成立までの間に特段の事情があったことはうかがわれない。したがって、元夫は、勤務先の男性に対し、離婚に伴う慰謝料を請求することができないというべきである。
 よって、元夫の請求を棄却する。

5 不貞慰謝料と離婚慰謝料の違い

 今回のケースで裁判所は、夫が妻の不倫という事実で心にキズを負った場合には不倫相手に対して不貞慰謝料を請求できるものの、この請求権が3年たって時効で消滅してしまったときに、夫が妻の不倫で離婚せざるを得なくなったという心の傷に対する慰謝料については、妻に対しての慰謝料請求は認められるものの、不倫相手に対する離婚慰謝料請求は特段の事情がなければ認められないとしました。
 不貞の事実に対する慰謝料と不貞による離婚に対する慰謝料との区別が明確になれば幸いです。

では、今日はこの辺で、また。


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