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学生から文句を言われない成績評価とは

 大学生間の「あの先生は単位厳しいから、やめといた方がええで」、「この授業は楽やで」といった会話は、昔から現代まで続く遺産と呼んでもよいかもしれません。しかし、この感覚的・経験的な話を、もう少し論理的に考えてみたいと思います。

1 大学教員は成績を自由に決めてよい?

 これまで、大学教員は自分の担当する科目に関しては、自由裁量で成績を評価してよいとされていました。ただし、シラバス(どのような授業をするのか、どのような成績評価をするのかを予め学生に提示)に記載したことをきちんと守ることは求められています。

【大学設置基準第25条の2】 ② 大学は、学修の成果に係る評価及び卒業の認定に当たつては、客観性及び厳格性を確保するため、学生に対してその基準をあらかじめ明示するとともに、当該基準にしたがつて適切に行うものとする。

 「俺、こんなに頑張ったのに、あいつと同じ評価かよ」といった学生の不満があるように、意図的に難しい問題や易しい問題を出題し、意図的に厳しくあるいは甘く採点、評価することに客観性はなく、学力をあるがままに正確に厳密に測定するという厳格性が求められているのです。

 それでも、他の先生や他の学問分野との間で、どうしても評価基準にズレに生じてしまうことがあります。そこで、各大学では悪戦苦闘しながらも成績評価のガイドラインを策定しようとしているのです。

2 絶対評価と相対評価

 成績評価の基本となる考え方として、絶対評価と相対評価があります。

 絶対評価とは、簡単に言えば単純に点数で成績評価をすることです。60点以上で単位を取得できるので、59点以下は当然に不可となり、極端な場合には受講者全員が不可となる可能性があります。逆に、成績上位の学生ばかりが受講していたとすると全員に90点以上がつく可能性があります。

 これに対して相対評価、つまり他者と比較してどれだけ優れているかで評価する方法によると、S(90点以上)を7%、A(80点以上)を24%、B(70点以上)を38%、C(60点以上)を24%、不可(60点未満)を7%といったような形で成績分布を設定することができ、科目間の難易度を統一することができます。しかし、この評価方法によると、絶対評価では80点だった者が90点以上の者に囲まれるとC評価に落ちてしまうというデメリットもあるのです。

3 不合格率の許容限度

 一般的に、難易度が高く難しい科目を受けた学生は、得点も評価も低くなり、難易度が低く易しい科目を受けた学生は得点も評価も高くなります。すると、講義内容が良くてもSやAを少なくつける高難易度の科目には学生が集まらないといった傾向が見られます。受講者を増やしたいと考える教員は意図的に良い成績をつけ、逆に受講者を減らしたいために不合格者を恣意的に増やすという事態が生じてしまうのです。

 つまり、厳格に成績をつける必要があるのはもちろんのこと、あまりにも多くの不合格者を出さないようにも工夫する必要があるのです。そこで、注目したいのは科目全体としての不合格率です。

 例えば、卒業に必要な単位数が124単位で、4年間の履修可能総単位数が192単位である場合、1-124/192=0.355すなわち、35.5%を超える不合格率を出すと、そもそも大学を卒業させないという設計になってしまうのです。

4 GPAによる評価の難しさ

 GPA(Grade Point Average)制度とは、成績評価についてS評価を4点、A評価を3点、B評価を2点、C評価を1点(不可は0点)と換算し、1単位あたりの平均値を求めるものです。

 例えば、法学入門が2単位でS、民法入門が2単位でB、憲法入門が2単位でAとすると、それらの点数を足して平均を求めると、(2×4+2×2+2×3)÷6=3.0となります。つまり、「あなたのGPAは3.0ですよ」と教えてくれるのですが、難易度が易しい科目ばかりを取ると高評価となり、興味があるが難易度が難しい科目ばかりを取ると低評価となってしまうのです。

 また、ある学生が2単位の4科目で90点、80点、70点、10点をとると、平均点は62.5点、GPAは(2×4+2×3+2×2)÷8=2.25となりますが、別の学生が同じ科目で89点、79点、69点、59点をとると、平均点は74点だがGPAは(2×3+2×2+2×1)÷8=1.5となってしまうという問題もあります。

5 授業の規模や多面的評価の影響

 成績評価に影響する要素は他にもまだまだ存在します。例えば、大講義(100人~1000人規模)や演習(10人~20人)、実験と言った形式によっても成績評価は大きく変わってきます。以前には、期末試験一発勝負で成績を評価してよかった時代もありましたが、「全部授業に出席したのに、なんで単位をくれないだ」という意見もありますので、現在では文科省から「中間試験と期末試験」、「複数レポートの提出」、「出席を証明するリアクションペーパーと期末試験」といった複数の評価材料を用意するように求められているのです。

おわりに

 今後も、万人の学生が納得する成績評価とは一体どのようなものかについて、模索していきたいと思います。

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