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高知東急事件

こんにちは。

 俳優の高知東生さんは、2016年に覚せい剤取締法違反の容疑で逮捕されたのですが、現在は依存症の問題の啓発について取り組まれています。

 そんな高知東生さんについて、今日はその芸名が問題となった「高知東急事件」(東京地判平成10年3月13日判例タイムズ966号257頁)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 高知東急という芸名を使用して平成5年ごろから活動を行っていた高知東急に対して、東京急行電鉄株式会社が「高知東急」の芸名を使用することが、不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当するとして、その使用の差止めを求めて提訴しました。

2 東京急行電鉄株式会社の主張

 「高知東急」の芸名を使用して芸能活動を行っているが、「高知東急」の主要部分は「東急」であり、これは東急グループの営業表示である「東急」と同一である。すると一般人が、高知東急氏と東急グループが何らかの密接な関係があるのではないかとの誤認混同を生じさせるおそれがある。よって、「東急」の文字を含む名称を使用することの差止めを求める。

3 高知東急の主張

 俺の芸名「高知東急」は、高知県出身でデビューが27歳と遅かったことから「急いで東京へのぼれ」と言う意味で、高知東急としましたが、しかしその読みは「たかちのぼる」であるから、東急と同一でもないし、類似もしていない。高知東急と東急グループとを混同する危険性が、抽象的にはあるかもしれませんが、具体的に危険があると言い切れないではないでしょうか。鉄道業と芸能との間には競業はないのではないでしょうか。

4 東京地方裁判所の判決

 高知東急の芸名のうち「東急」の部分は、その要部の一つであり、これは、東京急行電鉄及び東急グループの営業表示である「東急」と同一であるから、「高知東急」の芸名は、東京急行電鉄及び東急グループの営業表示である「東急」と類似であるものといわざるを得ない。
 「東急」という文字からは、通常「とうきゅう」の称呼が生じ、それ以外の称呼を想起することができず、人名といえども、本来漢字のいかなる音訓の組み合わせによっても「のぼる」又はそれに類似する音によって読むことはできず、単に被告が独自の読みをあてているにすぎないものであり、また常にふりがなをつけて表記されるわけでないことからすれば、これをもって非類似ということはできない。
 東急の営業表示の周知著名の程度、高知東急の芸名の使用状況、類似性の程度、東急の事業内容との関連性等の事実に鑑みれば、「高知東急」の芸名を使用して芸能活動を行うことは、高知東急が東京急行電鉄又は東急グループの資金的援助を受けているといった経済的な関係など、何らかの密接な関係があるとの誤信を生じさせる蓋然性が高いというべきであり、したがって、混同のおそれがあるものと認められる。
 よって、その芸能活動に「高知東急」その他「東急」の文字を含む名称を使用してはならない。

5 高知東生に改名

 今回のケースで裁判所は、高知東急の芸名を使用することが、東京急行電鉄と東急グループとの間に経済的もしくは組織的に何らかの密接な関係があるとの誤認混同を生じさせるおそれがあるため、不正競争防止法上の不正競争行為にあたるとして、その芸名の使用を差止めました。

 その後、高知東急氏は、「東京で生きる」ということで、「高知東生」という芸名に変更しています。たとえ芸名であったとしても、その名前が企業を連想させる場合には注意が必要でしょうね。

では、今日はこの辺で、また。


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