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日本舞踊事件

こんにちは。

 今日は、日本舞踊の著作物性が問題となった福岡高判平成14年12月26日を紹介したいと思います。


1 どんな事件だったのか

 日本舞踊英(はなぶさ)流の創始者で家元の地位にあった英聖峰は、二代目家元を継承すると公表された長女らが、自身に断りなく舞踊の公演をし、その振付者が長女と表示されていたことを目にしました。そのため、英聖峰は、振付について著作権を有することの確認と、今後の上演禁止や慰謝料の支払いを求めて提訴しました。

2 福岡高等裁判所の判決

 本件各舞踊は、いずれも、振付者の思想、感情を創作的に表現したものであるということができ、十分に著作物たりうる創作性を認めることができる。 
 英聖峰は英流において絶大な地位を占めており、同派は英聖峰の個人組織であるといっても過言ではなかったものであるところ、作品の振付においても、その関与の程度に濃淡はあるものの、同派の名を冠した作品については、少なくとも最終段階では英聖峰が総監督として必ずこれをチェックし、英聖峰の了承なしに発表することはなかったのであるから、英聖峰が特に他の者の著作権とすることを了承したとか、その作品の完成のいずれの段階にもまったく関与しなかった等特段の事情がある場合を除いては、英流として振り付けられた作品の著作権は英聖峰に帰属すると解するのが相当である。 
 本件においては、長女は二代目家元を承継したといっても、対内的、対外的とも完全に組織を代表していた従前の英聖峰と同等の意味での家元になりかわったとまではいうことはできない。その実態を直視すると、長女は、英聖峰の助けを借りながら、少しずつ権限を移譲され、一定の時期を経て対内的にも対外的にも信望が得られたときに、世情いわれるところの完全な組織の主宰者としての家元となることが構想されていたのであって、当時の段階ではいまだその過程にあったと解するのが相当である。
 英聖峰は、長女の二代目家元襲名にともなってそのすべての権限を譲渡してはいない。むしろ様子を見ながら少しずつ権限を移譲していこうというのがその趣旨である。
 してみると、著作権を譲渡することは自らはその権限を完全に失うことを意味するから、英聖峰がそこまでの意思を有していたとは到底解することは できない。  
 よって、二代目家元襲名によってはいまだ著作権は譲渡されていないと解するのが相当である。
 英聖峰は本件各舞踊についての著作権を現時点においても保持しており、これに対して、長女らは包括的な上演実施権を有しているとは認められない。
 本件第1上演に際し、長女が本件上演に際しパンフレットに本件各舞踊の振付者を長女であると表示したことは当事者間に争いがない。これらの長女らの行動がいずれも英聖峰の著作者人格権を侵害することは明らかであるが、舞踊家にとって振付者の氏名をきちんと表示されることは極めて重要な権利であるから、これが侵害されたことの慰謝料として、長女らに金50万円の損害賠償金支払義務を認めるのが相当である。 
 よって、原判決は相当であるので、長女らの控訴を棄却する。

3 振付と著作権

 今回のケースで裁判所は、日本舞踊は、振付者の思想、感情を創作的に表現したものなので、十分に著作物としての創作性を認めることができ、また英流として振り付けられた作品の著作権は英聖峰に帰属し、長女に二代目家元を継承させると内外に公表した際に、長女に舞踊の著作権を譲渡したわけではなく、包括的に上演を許諾してもいないので、差止および損害賠償を認容した原審を維持し、長女の控訴を棄却しました。
 伝統芸能や民俗芸能として手本となる踊りがあったとしても、流派で独自性のある振り付けがされ、またコンクールで受賞するなど客観的に芸術性が高い場合には、振付に著作物性が認められるという点に注意が必要でしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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