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パートナーシップ事件

こんにちは。

 今日は、結婚していない男女間に子どもが生まれ、別居生活を続けたのちに一方的に関係を解消することが問題となった最判平成16年11月18日を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 男性と女性は、婚姻届けを出さずに、2人の子どももうけ、別居しながら16年間にわたってパートナーシップ関係を続けていました。ところが、男性から、一方的に関係解消を通告されただけでなく、別の女性と結婚したことによって精神的な損害を受けたとして、男性に対して慰謝料500万円の支払いを求めて提訴しました。

2 最高裁判所の判決

 一審の東京地方裁判所は女性の請求を棄却しましたが、二審の東京高等裁判所は「合意に基づく関係を一方的に破棄することは許されない」として、男性に100万円の慰謝料の支払いを命じました。最高裁は、次のような理由で、二審の男性側の敗訴部分を破棄し、女性側の控訴を棄却しました。

 男性と女性とは、女性が大学4年生であった昭和60年11月 に結婚相談所を通じて知り合い、その1か月後には婚約し、翌年3月に入籍の予定であったが、同月ころ、婚約を解消した。男性と女性は、上記婚約を解消するに際し、結婚する旨の報告をしていた関係者に対し、連名で婚約を解消する旨の書状を発送したが、その書状には、「お互いにとって大切な人であることにはかわりはないため、スープの冷めないぐらいの近距離に住み、特別の他人として、親交を深めることに決めました」との記載がある。  
 男性は、昭和61年4月15日ころ、女性の家の近くに引っ越して来て、双方が互いの家を行き来するようになった。そして、平成2年4月に男性が東京都の自宅に転居してからも、男性が女性宅に泊まって女性宅から出勤するということもあった。もっとも、男性と女性とは、その住居は飽くまでも別々であって同居をしたことはなく、合鍵を持ち合うことも、男性が女性宅に泊まったときに一緒に食事をすることもなく、また、生計も全く別で、それぞれが自己の生計の維持管理をしており、共有する財産もな かった。
 女性は出産には消極的であったが、男性が子供を持つことを強く望んだため、両者の間で、男性が出産に関する費用及び子供の養育について全面的に責任を持つという約束をした上で、女性は、平成元年6月6日、男性との間の長女を出産した。男性と女性は、長女の出産に際しては、子供が法律上不利益を受けることがないようにとの配慮等から、その出生の日に婚姻の届出をし、同年9月26日に協議離婚の届出をした。また、女性は、上記の約束に基づき、妊娠及び出産の際の通院費、医療関係費及び雑費等を男性に請求して受領したほか、男性の親から出産費用等として約650万円を受け取った。
 上記の約束に基づき、長女は、出生後、静岡県内に住んでいた男性の母に引き取られ、その下で養育され、女性がその養育にかかわることはなかった。その後、長女は、男性の母と共に東京に転居し、男性の母と2人で暮らしている。  
 女性は、平成5年2月10日、男性との間の長男を出産した。長男の出産は、一卵性双生児の一方が出産後間もなく死亡するという異常出産で、女性自身も一時的に危篤状態に陥り、2か月間入院した。その出産に先立ち、女性が、生まれてくる子供の養育の負担により自分の仕事が犠牲にならないようにするため、子供の養育の放棄を要望したことから、男性と女性とは、平成4年11月17日、女性及びその家族が出産後の子供の養育についての労力的、経済的な負担等の一切の負担を免れることを男性は保障すること、女性は男性が決定する子供の養育内容について一切異議を申し立てないこと等の取決めを行い、その取決めを記載した書面に公証人役場において公証人の確定日付を受けた。また、女性は、長男の出産の際にも、男性から相当額の出産費用等を受け取っており、両者は、長女の場合と同様の配慮から、長男の出生の届出をした日(平成5年2月19日)に婚姻の届出をし、同月23日に協議離婚の届出をした。
 長男は、上記取決めに基づき、男性に引き取られたが、男性の判断で施設に預けられた。長男は、その施設において養育され、女性がその養育にかかわることは全くなかった。その後、後記のとおり、男性が別の女性と婚姻したことにより、長男は、平成14年3月、男性らの下に引き取られた。  
 長男の出産の前後において、男性と女性との関係が悪化し、男性の女性に対する暴力行為や、男性による女性宅の玄関ドアの損壊などが あり、出産後、両者は半年間ほど絶交状態にあったが、その後、関係が修復し、男性が女性の原稿の校正を行ったり、女性の研究分野に関する資料を送付したり、一緒に旅行をするなどしていた。また、女性は、平成8年ころから富山大学教育学部の助教授として勤務するようになったが、男性は、女性が富山市内にアパートを借りるに当たって連帯保証人となったり、女性が同大学で「ジ ェンダー論」の講義をするに際し、女性の求めに応じ、講義資料として自己の 戸籍謄本を提供したり、学生にメッセージを寄せるなどの協力をした。  別の女性は、大学の通信教育で学びながら、男性の勤務する百貨店でアルバイトをしていたが、平成12年ころ、男性と知り合い、思いを寄せるようになった。 別の女性は、上記アルバイトを辞め、別の会社に勤めた後も、男性との交際を続けた。 別の女性は、平成13年4月30日、男性宅を訪れ、男性と話合いをし、男性と女性との間に2人の子供がいることを理解した上で、男性との結婚を決意した。  
 男性と女性とは、同年5月の連休に、一緒に京都旅行に行くことにしていたが、男性がこれをキャンセルし、女性は1人で旅行に出かけた。同月2日、男性は、京都旅行から東京に帰ってきた女性に対し、東京駅において、今後は今までのような関係を持つことはできない旨等を記載した手紙を手渡すとともに、他の女性と結婚する旨を告げ、女性との関係を解消した。  
 男性と別の女性は、同年7月18日、婚姻の届出をした。  
 本件は、女性が、男性に対し、男性が突然かつ一方的に両者の間の 「パートナーシップ関係」の解消を通告し、別の女性と婚姻したことが不法行為に当たると主張して、これによって女性が被った精神的損害の賠償を求める事案である。  
 原審は、前記の事実関係の下において、次のとおり判断し、女性の請求 を、慰謝料100万円の支払を求める限度で認容し、その余を棄却すべきものとした。
 男性と女性との関係は、婚姻届を提出せず、法律婚として法の保護を受けることを拒否し、互いの同居義務、扶助義務も否定するという、通常の婚姻 ないし内縁関係の実質を欠くものであったことが認められる。そのような関係は、その維持を専ら両者の自由な意思のみにゆだねるものであり、法的な拘束性を伴うものではないと解されるから、その解消に当たっては、互いに損害賠償責任を生ぜしめるものではないと解する余地もあり得る。  
 しかしながら、男性と女性とは、両者が知り合った昭和60年から 平成13年に至るまでの約16年間にわたり、上記のような関係を継続してきたも のであり、その間、2人の子供をもうけ、時に互いの仕事について協力し、一緒に旅行をすることもあること等、互いに生活上の「特別の他人」としての立場を保持してきたこともまた認められる。  
 そうすると、男性が、女性との格別の話合いもなく、平成13年5月2日、突然、上記の関係を一方的に破棄し、それを破たんさせるに至ったことについては、女性における関係継続についての期待を一方的に裏切るもので あって、相当とは認め難い。
 したがって、男性は、女性に対し、不法行為責任を免れ難い。  
 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。  
 前記の事実関係によれば、男性と女性との関係は、昭和60年から平成 13年に至るまでの約16年間にわたるものであり、両者の間には2人の子供が生まれ、時には、仕事の面で相互に協力をしたり、一緒に旅行をすることもあったこと、しかしながら、上記の期間中、両者は、その住居を異にしており、共同生活をしたことは全くなく、それぞれが自己の生計を維持管理しており、共有する財産もなかったこと、女性は男性との間に2人の子供を出産したが、子供の養育の負担を免れたいとの女性の要望に基づく両者の事前の取決め等に従い、女性は2人の子供の養育には一切かかわりを持っていないこと、そして、女性は、出産の際には、男性側から出産費用等として相当額の金員をその都度受領していること、男性と女性は、出産の際に婚姻の届出をし、出産後に協議離婚の届出をすることを繰り返しているが、これは、生まれてくる子供が法律上不利益を受けることがないようにとの配慮等によるものであって、昭和61年3月に両者が婚約を解消して以降、両者の間に民法所定の婚姻をする旨の意思の合致が存したことはなく、かえって、両者は意図的に婚姻を回避していること、男性と女性との間において、上記の関係に関し、その一方が相手方に無断で相手方以外の者と婚姻をするなどして上記の関係から離脱してはならない旨の関係存続に関する合意がされた形跡はないことが明らかである。  
 以上の諸点に照らすと、男性と女性との間の上記関係については 、婚姻及びこれに準ずるものと同様の存続の保障を認める余地がないことはもとよ り、上記関係の存続に関し、男性が女性に対して何らかの法的な義務を負う ものと解することはできず、女性が上記関係の存続に関する法的な権利ないし利益を有するものとはいえない。そうすると、男性が長年続いた女性との上記関係を前記のような方法で突然かつ一方的に解消し、他の女性と婚姻するに至ったことについて女性が不満を抱くことは理解し得ないではないが、男性の上記行為をもって、慰謝料請求権の発生を肯認し得る不法行為と評価することはできないものというべきである。
 以上によれば、上記と異なる見解の下に、男性の女性に対する不法行為責任を肯定し、女性の請求の一部を認容した原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決のうち男性敗訴部分は破棄を免れない。
 以上、女性の請求は理由がなく、これを棄却した第1審判決は相当であるから、上記部分に係る女性の控訴を棄却する。

3 結婚をしない協力関係

 今回のケースで裁判所は、子どもをもうけたが、お互いに束縛されないために法律上の婚姻をせず、住むところも別々の男女関係について、男性が一方的に別れを告げたとしても、女性は慰謝料を請求できないとしました。

 女性が男性から「別の女性と結婚する」と手紙1通を手渡されただけで、子どもの将来について話し合う姿勢がなかったことから裁判に発展したようですが、様々な事情で同居するまでには至らないパートナー関係という新しい結婚の形が注目されたのは間違いないでしょうね。

詳細については、こちらの本人のサイトも参照。


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