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アイドルの恋愛禁止事件

 こんにちは。

 今も昔も、みんなが「こんな女性(男性)がいたらいいなあ」と思う人物像を演じているのがアイドルグループです。

 そんなアイドルに関して、所属事務所と結んだ恋愛禁止の契約が有効なのかどうかをめぐって裁判になることがあります。ところが、裁判官の意見は真っ二つに分かれています(東京地判平成27年9月18日、東京地判平成28年1月18日)。

 法律上、いったい何が問題となっているのかを知ることで、アイドルの置かれている状況を理解できると思いますので、早速見ていきましょう。

1 アイドルとマネジメント会社との間の契約

 伝統的に、アイドルとのマネジメント会社との間で、専属契約が結ばれるのですが、多くの場合、次のような条項が挿入されています。

 以下のような事項が発覚した場合には、契約を解除してマネジメント会社がアイドル本人に対して損害の賠償を請求することができる。
一 ファンと親密な交流・交際等が発覚した場合

 一般的には恋愛禁止条項と呼ばれていて、未成年のアイドルが締結してアイドル活動をしていることも珍しくありません。しかし、アイドルの恋愛が発覚すれば、マネジメント会社は契約通りにアイドル本人に対して損害賠償をすることになります。

2 dokidoki事件

マネジメント会社:「ファンを裏切っとるんやで。そうならへんように恋愛禁止条項を課すちゅうのは、芸能界の常識で、一般的な慣習や。しかも、グループが解散になったんや。契約違反により当然に賠償金を払ってもらうで。とくに、グループが活動した半年間で、売り上げが約220万円、そこから報酬を引くと約132万円、そのほかTシャツの作成費用やレコーディング費用など、すべてがパーや。君と交際相手の男には、しめて500万円は払ってもらわな困る。」

アイドル:「マネジメント会社は本気で恋愛を禁止していたわけではなく、公に知られなければ黙認していたはずだ。まだ公に知られていないので、発覚したわけじゃない」

3 東京地判平成27年9月18日

裁判長:「交際が発覚すれば、グループの活動に影響が生じ、マネジメント会社に損害が生じることが容易に認識可能であったので、アイドル本人は損害賠償責任を負う。しかし、会社が恋愛禁止について注意又は指導していたわけではないので、その分を過失として差し引くと、アイドル本人はTシャツ代とレコーディング費用を合わせた109万円のうち、6割にあたる約65万円を支払え。

4 青山☆聖ハチャメチャハイスクール事件

マネジメント会社:「交際が発覚しただけでなく、いきなり辞めるって言うて、ライブをすっぽかすなんて、会社の業務妨害の何ものでもない。だから君と交際相手の男には、880万円は払ってもらわんとなあ。あと、君の両親にも監督が不十分やったちゅうことで110万円を請求しとくわ」

アイドル:「私はただ、安定しない収入でこの年になってまで親に迷惑をかけたくなく、ちゃんと就職して安定したかっただけなんです。また、私から交際を公表したわけではなく、会社がライブ会場で私の交際の事実とグループ脱退の事実を公表したじゃないですか。なんで私が責められないといけないんですか。

5 東京地判平成28年1月18日

裁判長:「アイドルが生活するのに十分な報酬も得られないまま、会社の指示に従ってアイドル活動を続けることを強いられ、従わなければ損害賠償の制裁を受けるという一方的に不利な契約となっている。また、異性との交際を妨げられない自由は、幸福を追求する自由の一内容をなすものである。損害賠償という制裁で交際を禁止するというのは、いかにアイドルという職業上の特性を考慮したとしても、いささか行き過ぎな感は否めない。会社による損害賠償は、アイドル本人が積極的に会社に損害を生じさせようとの意図をもって交際の事実を公にしたなど、害意が認められる場合に限られる。よって、会社側のすべての請求を棄却する。」

6 交際相手への損害賠償請求は認められない

 今回紹介したケースはいずれも、交際相手だったファンの男性に対する損害賠償請求は認められていませんでした。また、恋愛禁止条項が有効かどうかについて、高等裁判所や最高裁判所の判断によって確立されるまでは、しばらくかかりそうです。アイドルによる契約違反が問題なのか、それとも会社による恋愛を禁止する契約自体に問題があるのか、今後も注目していきたいですね。

では、今日はこの辺で、また。


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