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こんにちは。

 歴史に残る大事件として「光クラブ事件」があります。東大法学部3年生だった山崎晃嗣(あきつぐ)は、光クラブ金融株式会社を設立しました。しかし、営業形態としては今のヤミ金のように、10日1割の利息をとり、暴力団を使って強引な回収をしていたとされます。その後、山崎は物価統制令で逮捕され、その後は青酸カリにより服毒自殺するという結末になりました。
 今日は、山崎と共に光クラブの経営を手助けしていた三木仙也が提起した裁判について紹介してみたいと思います。検察官との間でどのような攻防があったのでしょうか。

1 有価証券虚偽記入で起訴

 三木仙也は、代々黒田藩の典医であった家に生まれ、父は名古屋市内に病院を経営し後に名古屋市医師会長をし、叔父も東大附属病院長をしたことのある医学者であったことから、家業を継いで医師になることを志して日本医科大学に入学しました。途中兵役に服し、終戦後に復学しましたが、在学中の昭和22年、東大学生の山崎晃嗣と知り合って金融業光クラブの設立経営の手助けをすることとなりました。ところが山崎が突然自殺したことから「光クラブ事件」として世間に騒がれ、やむを得ず三木は大学を退学しました。三木は、医業を継ぐことを断念して以来、金融や不動産取引の仲介あっせんの業務に従事することになります。
 三木は、住友一夫と共同で代表取締役をしていた住友建設株式会社が資産皆無であることを知りながら、額面50万円(258枚)、5万円(600枚)の株券を発行していました。すると、捜査当局は三木を詐欺罪及び横領罪、有価証券虚偽記入罪により逮捕、起訴しました。

2 刑事裁判

 東京地方裁判所(東京地判昭和44年12月26日判例時報599号103頁)は、詐欺罪と横領罪については有罪とし、有価証券虚偽記入罪については次のような判決を下しました。

「主文:被告人を無罪とする。
 株式会社の株券は株主たる地位を表象するものであって、必ずしも株券の表示する株式券面額は、会社資産の経済的価値を表象するものではないから、被告人は何ら真実に反する記載をしたことにはならない。例えば、「1000株券50万円」の株券は、株式総数25万8000株に対する1000株の割合の持分権、いいかえれば会社財産に対する258分の1の持分権をあらわすに過ぎず、それ自体で50万円の価値をあらわすものではない。被告人が資産皆無の状態にある会社の株式を発行しても、その株式は無価値な、もしくはきわめて価値の少い株式として取り扱われるだけのことであってそのような株式を発行してはならないということにはならない。そうであれば被告人が印刷した今回の各株券の文言中には何等虚偽事項がふくまれているものではない。従って、被告人の行為は、有価証券虚偽記入罪を構成するものではない」。

3 刑事補償

 その後、三木は無罪となった有価証券虚偽記入罪の疑いについて昭和42年1月18日から6月15日まで勾留されていたので、その期間の刑事補償として19万3700円を請求しました。これに対して検察側は、裁判によって併合罪の一部について無罪の裁判を受けていても、他の部分について有罪の裁判を受けた場合、刑事補償法3条2号には補償の一部または全部をしないことができるとあるので、これに該当すると争いました。

 東京地方裁判所(東京地決昭和45年9月30日判例時報617号103頁)は、「刑事補償法3条2号の場合に刑事補償の一部または全部をしないことができるとしているのは、抑留または拘禁が有罪部分と無罪部分の双方の捜査および公判審理のため利用されたときは、その利用関係

に応じて補償すれば足り、無罪の部分があるからといってただちに抑留または拘禁の全部についてまで補償をする必要はないとの趣旨であり、逆に言えば形式的には同号に該当する場合であっても、抑留または拘禁が有罪の部分の捜査および公判審理と関係がない場合には同号は適用がない趣旨と解しなければならない。よって、1日1000円の補償を相当とし、請求人に対し14万9000円を交付する」、と決定しました。

4 国家賠償

 さらに三木は、検察官が有価証券虚偽記入罪の構成要件に明らかに該当しない行為について自らを逮捕、勾留、起訴したのは、検察官の重過失に基づくものだとして、国家賠償法に基づいて損害賠償を求めました。

 これについて東京地方裁判所(東京地判昭和49年4月9日判例タイムズ311号169頁)は、「逮捕、勾留は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があり、かつ身柄拘束の必要性があること、公訴の提起は公訴事実について有罪判決を得られる合理的な根拠があることを要するものはもとよりであるが、その刑事判決において結果として無罪の判決が確定したというだけでは、直ちに検察官の各措置が違法となるわけではない。これらが違法であるというためには、検察官がその際に犯罪事実の存在についてなした証拠上あるいは法律解釈上の判断が、経験則、論理則上到底首肯し得ない程度に非合理な心証形成に達していることが必要である。担当検察官の判断が明らかなに不合理なものであったと解することは困難であるので、原告の請求を棄却する」と判決を下しました。

5 六法を隅から隅まで調べ尽くす

 三木は、東大法学部のエリートだった山崎と出会ったことで、金融の世界にずるずる引き込まれていきました。山崎は六法を隅から隅まで読んで、法律の抜け穴をついて詐欺を行う知能犯だったことから、三木にもその手法が受け継がれているのではないかと思われる興味深い事件でしたね。

では、今日はこの辺で、また。


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