見出し画像

社交ダンス教室事件

こんにちは。

 今日は、社交ダンスのレッスンで流している音楽の著作権をめぐって争われた名古屋地判平成15年2月7日、名古屋高判平成16年3月4日とを紹介したいと思います。


1 どんな事件だったのか

  愛知県で社交ダンス教室を経営している経営者らは、音楽を録音したCDを教室内で再生し、その音楽に合わせてダンスのレッスンをしていました。すると、JASRACは、その社交ダンス教室7件に対して、音楽著作物の無断利用をしているとして、著作権侵害の差止と、5130万円の損害賠償を求めて提訴しました。

2 名古屋地裁と名古屋高等裁判所の判決

 名古屋地方裁判所は、「一般に、「公衆」とは、不特定の社会一般の人々の意味に用いられるが、著作権法は、同法における「公衆」には、「特定かつ多数の者」が含まれる旨特に規定している。法がこのような形で公衆概念の内容を明らかにし、著作物の演奏権の及ぶ範囲を規律するのは、著作物が不特定一般の者のために用いられる場合はもちろんのこと、多数の者のために用いられる場合にも、著作物の利用価値が大きいことを意味するから、それに見合った対価を権利者に環流させる方策を採るべきとの判断によるものと考えられる。かかる法の趣旨に照らすならば、著作物の公衆に対する使用行為に当たるか否かは、著作物の種類・性質や利用態様を前提として、著作権者の権利を及ぼすことが社会通念上適切か否かという観点をも勘案して判断するのが相当である。
 これを本件についてみるに、ダンス教室経営者らによる音楽著作物の再生は、本件各施設において ダンス教師が受講生に対して社交ダンスを教授するに当たってなされるものであり、かつ、社交ダンスはダンス楽曲に合わせて行うものであり、その練習ないし指導に当たって、ダンス楽曲の演奏が欠かすことができないものであることは経営者らの自認するところである。そして、経営者らは、格別の条件を設定することなく、その経営するダンス教授 所の受講生を募集していること、受講を希望する者は、所定の入会金を支払えば誰でもダンス教授所の受講生の資格を得ることができること、受講生は、あらかじめ固定された時間帯にレッスンを受けるのではなく、事前に受講料に相当するチケットを購入し、レッスン時間とレッスン形態に応じた必要枚数を使用することによって、営業時間中は予約さえ取れればいつでもレッスンを受けられること、レッスン形態は、受講生の希望に従い、マンツーマン形式による個人教授か集団教授かを選択できること、以上の事実が認められ、これによれば、本件各施設におけるダンス教授所の経営主体である経営者らは、ダンス教師の人数及び本件各施設の規模という人的、物的条件が許容する限り、何らの資格や関係を有しない顧客を受講生として迎え入れることができ、このような受講生に対する社交ダンス指導に不可欠な音楽著作物の再生は、組織的、継続的に行われるものであるから、社会通念上、不特定かつ多数の者に対するもの、すなわち、公衆に対するものと評価するのが相当である。」として、音楽著作物の使用差し止めと、損害賠償を認めました。
 続いて、名古屋高等裁判所は次のように判決を下しました。
 CD等によって再生された音楽の利用曲数は、受講者の実力の違いに基づいて、顕著な差が生じるものではないこと、同一フロアに複数の受講生がいても、一時に演奏することのできる楽曲は1曲であること、昭和59年にNHKが 「レッツダンス」を放映したことを契機に一般人にも社交ダンスが浸透しはじめ、社交ダンスの人口は増加したものの、映画「Shall we ダンス?」 が大ヒットした平成8年をピークに、バブル経済の崩壊に伴う経済状態の悪化もあって、社交ダンス教室の生徒数は漸次減少の傾向が見られること、財団法人自由時間デザイン協会が発行している「レジャー白書2001」によれば、「洋舞・社交ダンス」の余暇活動参加人口は、平成4年から 平成12年までの各年において万人の単位で、200,260、190、230、260、250、240、180、200で推移していることなどが認められ、これ らの事情を総合勘案すれば、経営者らは、毎月いずれも不法行為が成立した使用料相当額の利得を受けていたというべきである。
 よって、社交ダンス教室経営者らは、合わせて約3646万円を支払え。

3 1人の受講者でも公衆

 今回のケースで裁判所は、ダンス教室のレッスンで音楽を再生したとしても「公の演奏」にあたらないとの主張に対して、誰でも受講者になれるため1人の受講者のみを対象にした音楽再生でも『公衆』にあたるとして、ダンス教室による著作権侵害を認めました。
 裁判所は、ダンス教室の入会金及び受講料には、音楽著作物の演奏に対する対価も含まれていると考えている点に注意が必要でしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?