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日産自動車事件

こんにちは。

 日産といえば、2018年にカルロス・ゴーン社長が逮捕され、その後に国外逃亡が話題となりました。

 その他にも、過去の裁判には日産自動車の定年制度が問題となった有名な事件があります。そこで今日は、「日産自動車事件」(最判昭和56年3月24日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 女性従業員の中本ミヨさんは、男女ともに55歳が定年とされていたプリンス自動車工業に勤めていました。その後、プリンス自動車工業は日産自動車に吸収合併されました。ところが、日産自動車の就業規則では定年が男性55歳、女性50歳と定められていたことから、中本さんが満50歳になると、会社から1969年1月末での退職を命じられたのです。

 この点に納得がいかなかった中本さんは、従業員の地位の確認を求めて裁判所に訴えを提起しました。

2 中本さんの主張

 憲法14条、民法2条には、性による不合理な差別を禁止するという男女平等の原理が規定されています。日産自動車の就業規則は、これにおもいっきり違反しているので、民法90条の公序良俗違反で無効です。

 また会社は定年差別の理由として、女子の業務が会社にそれほど貢献しない補助的業務だからとして、ことさらに低く評価する一方で、男子の業務は長期間習熟すればする程、貢献度が高まる基幹業務だといっています。けれど、女子の担当業務の中にも、インテリア・デザイン、医療看護その他の専門的知識を要する業務が多数含まれているので、これは事実と反します。

3 日産自動車側の主張

 中本さんは、検査の技能、経験において他の従業員より劣るし、得意だったトレースの仕事もないので、与えるべき適当な職がないばかりか、他に配置転換することも困難だったのだ。工場では、検査業務が多忙となり、検査が済んでいない部品が山積み状態になることもしばしばあったけど、中本さんは、無断で職場を離れたり、無断ビラ配りなど政治活動をしてたでしょ。こんなこと工場内において許されるはずがなく、このような秩序違反をした者を整理の対象とすることは十分な理由があると思います。
 定年を男子従業員満55歳、女子従業員満50歳としている企業も数多くあり、それは合理的理由に基づくもので、しかもその定年の差はわずか5年にすぎないのであるから、民法第90条に違反するものではない。

4 最高裁判所の判決

 女性従業員各個人の能力等の評価を離れて、女性を全体として日産自動車に対する貢献度の上がらない従業員と断定する根拠はない。しかも、女性従業員について労働の質量が向上しないのに実質賃金が上昇するという不均衡が生じていると認められる根拠はない。また、少なくとも60歳前後までは、男女とも通常の職務であれば、企業経営上要求される職務遂行能力に欠けるところはなく、各個人の労働能力の差異に応じた取扱いがなされるならともかく、一律に従業員として不適格とみて企業外へ排除するまでの理由はない。以上のことを考えると、日産自動車の企業経営上の観点から定年年齢において女性を差別しなければならない合理的理由は認められない。すると、日産自動車の就業規則中、女性の定年年齢を男性より低く定めた部分は、もっぱら女性であることのみを理由として差別したということになり、性別のみによる不合理な差別を定めたものとして公序良俗に反し無効である。

5 男女雇用機会均等法

 現在の雇用機会均等法においては、退職勧奨、定年、解雇、労働契約の更新について、労働者の性別を理由として差別的取扱いをしてはならないと明記されています。

 また、企業には職場のセクハラやマタハラを防止する対策をとることも義務づけられていますので、十分な注意が必要ですね。

 では、今日はこの辺で、また。


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