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不動産の横領事件

こんにちは。

 個人間で土地の売り買いをして、自分で法務局に行き土地の名義を変更しようとしたときに、法務局のHPに所有権移転登記申請書のひな型のデータが掲載されていたり、Youtube動画などで登記のやり方を学べて便利になりましたね。

 さて今日は、不動産の所有権移転登記をしていなかったことから横領事件に発展した「鳥取二重売買事件」(大判昭和7年3月11日刑集11巻167頁)、「岡山二重売買事件」(最判昭和30年12月26日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。


1 鳥取二重売買事件

 被告人は、佐伯太一に1万1350円で不動産を売却し、所有権移転登記手続の申請に必要となる書類を交付しました。しかし、佐伯太一が所有権移転登記手続きをしないでいたところ、被告人は、その不動産の一部を竹村辨吉と三好きみにも売却してしまいました。そのため、被告人は横領罪の容疑で逮捕、起訴されました。

2 大審院の判決

 およそある不動産について売買契約が成立し、未だ所有権移転の登記を完了していない間は、その所有権は移転しているといえども登記簿上は依然として売渡人の所有名義のままである。そうすると、当事者間に登記手続きに必要な書類の授受があったかどうかにかかわらず、刑法252条1項を適用する上で、当該不動産は売渡人の占有する他人の物にほかならないので、これを他人に売却する売渡人の行為は横領罪を構成する。
 よって、被告人を懲役6月に処す。

3 岡山二重売買事件

 被告人は、岡山県勝田郡にあった山林を浜田軍治に売却したものの、その隣接する土地に生えていた立木を、浜田軍治の甥にあたる浜田良夫が勝手に伐採するなど、浜田軍治との間でトラブルが絶えませんでした。そんな時に、西村梅吉からその山林の買取の申し込みがあったので、被告人は山林の名義が自身の名義のままだったことを利用して、梅吉に3万5000円で売却しました。すると、横領罪の容疑で逮捕、起訴されました。

4 最高裁判所の判決

 不動産の所有権が売買によって買主に移転した場合、登記簿上の所有名義がなお売主にあるときは、売主はその不動産を占有するものと解すべく、従っていわゆる二重売買においては横領罪の成立が認められるとする趣旨は、大審院当時くりかえし判例として示されたところであり、この見解は今なお支持せられるべきものである。
 本件について原判決の是認する第一審の確定した事実は、被告人は判示のように本件山林を浜田軍治に売却したのであるが、なお登記簿上被告人名義であるのを奇貨とし、その山林をさらに西村梅吉に売却したというのであるから、原審が横領罪の成立を認めたのは相当であってなんら誤りはない。
 よって、被告人の上告を棄却する。

5 買主が横領罪に問われることも

 今回のケースで裁判所は、不動産の所有権が売買によって買主に移転した場合、登記簿上の所有名義がなお売主にあったとしても、売主がその不動産を占有していると考えられるので、二重売買をすれば横領罪が成立するとしました。
 また、売却されたものの登記が移転されていない不動産について、第二の買主が二重売買になることを認識ながら、しかも名義人が拒絶しているにもかかわらず、「借金はもう50年以上経過して時効になっている、裁判になっても自分が引き受けるから心配はいらない」と執拗に働きかけて、不動産を買い受けた者に横領罪の共同正犯が成立するとされた事例もあります(福岡高判昭和47年11月22日)。不動産の二重売買には十分に注意する必要があるでしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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