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ASKA未公開楽曲放送事件

 こんにちは。

 常々、堅苦しい裁判をもっとおもしろく解説できたらいいなあと思っていたので、一度、おもいきってチャレンジしてみたいと思います(エンタメ要素をふんだんに盛り込みますが、そこはご容赦ください)。

 今回紹介する事件は、ASKA未公開楽曲放送事件(東京地方裁判所平成30年12月11日判決、裁判所ウェブサイトに掲載)です。


1 どのような事件だったか?

 チャゲ&飛鳥「SAY YES」「YAH YAH YAH」を聞くと、私の青春時代を思い出して胸が熱くなりますね。

 そのアスカさんが芸能リポーターの井上公造さんに「感想を聞きたい」と、「1964 to 2020東京Olympic」と題する楽曲を提供したことが事件の始まりでした。後日、その楽曲が読売テレビの「ミヤネ屋 情報ライブ」で使われていたことから、アスカさんが「公造さん、未公開作品を勝手にテレビで流したらアカンでぇ。著作権侵害や!」とテレビ局と井上公造さんを相手に、3300万円の損害賠償を求めて提訴したのです。

2 公表権とは

 歌詞や曲は法律上は著作物と扱われ、法律では次のように規定されています。

著作権法2条1項1号 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

 著作者は、著作物について著作権と著作人格権を持っているのですが、著作人格権として4つの権利(公表権、氏名表示権、同一性保持権、名誉声望保持権)があります。

 公表権とは、公表されていない自分の著作物を公表するかしないか、いつ公表するのかを自分で決定することができる権利のことです。

著作権法18条1項 著作者は、その著作物でまだ公表されていないもの(その同意を得ないで公表された著作物を含む。以下この条において同じ。)を公衆に提供し、又は提示する権利を有する。当該著作物を原著作物とする二次的著作物についても、同様とする。(以下省略)

3 井上さん、読売テレビの言い分(被告の主張)

井上、局側:「芸能レポーターに情報を渡せば、公表されるのをわかってたんじゃないか。それどころか告知されるのを期待していたのではないでしょうか。だって公表しないでくださいとの断りもなかったですし。だからすでに楽曲は公表された著作物だといってもよいのではないでしょうか。」

著作権法32条1項 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

井上、局側:「著作権法41条には『時事の事件の報道』のためだったら楽曲を利用できると書いてあるので、今回は覚せい剤使用の疑いの事実を判断する材料として楽曲を使わせてもらったから、問題はないと思います。」

著作権法41条 写真、映画、放送その他の方法によつて時事の事件を報道する場合には、当該事件を構成し、又は当該事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物は、報道の目的上正当な範囲内において、複製し、及び当該事件の報道に伴つて利用することができる。

4 アスカさんの言い分(原告の主張)

アスカ:「そもそも、公表することを許可した覚えはないし、今回の事件の報道と楽曲は全然関係ないやん!」

5 判決

裁判官:「主文、井上公造と読売テレビは、アスカに対し、連帯して117万4000円を払え」

 「公表されへんかったら3300万円は儲かったのに」というのではなく、「公表されたらかなわんなあ~」という損害額が117万円と認定された点にも注目する必要があると思います。


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