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無権代理人の本人相続事件

こんにちは。
 「代理と媒介の法律上の違いを説明せよ」と言われたら、代理は代理人が契約の当事者となるのに対して、媒介では媒介をする人が契約の当事者にならないということを指摘するのが重要です。

 さて今日は、「無権代理人の本人相続事件」(最判昭和40年6月18日裁判所ウェブサイト)について紹介したいと思います。


1 どんな事件だったのか

 後藤利満は、父親の後藤寅一から、何の代理権も付与されたこともなく、また代理権を与えたとの表示もされたことがないにもかかわらず、利満は寅一の代理人として、寅一の土地を担保にお金を借りてくることを遅沢に依頼しました。利満は、寅一の印鑑を無断で使用して委任状を作成し遅沢に渡したところ、遅沢は寅一の土地を菊池に24万円で売却する契約をして、所有権移転登記をしてしまいました。2年後に寅一が死亡して利満が単独で寅一を相続すると、利満は遅沢の無権代理行為の追認を拒絶し、遅沢には前科があり、何の財産もないことを知っていたにもかかわらず、代理権がないことについて十分な調査をしなかったことに過失があると主張して、菊池に対して所有権移転登記の抹消を求めて提訴しました。

2 最高裁判所の判決

 無権代理人が本人を相続し本人と代理人との資格が同一人に帰するにいたった場合においては、本人が自ら法律行為をしたのと同様な法律上の地位を生じたものと解するのが相当であり、この理は、無権代理人が本人の共同相続人の1人であつて他の相続人の相続放棄により単独で本人を相続した場合においても妥当すると解すべきである。したがって、原審が、右と同趣旨の見解に立ち、後藤利満は遅沢に対する金融依頼が亡寅一の授権に基づかないことを主張することは許されず、遅沢はその範囲内において寅一を代理する権限を付与されていたものと解すべき旨判断したのは正当である。そして原審は、原判示の事実関係のもとにおいては、遅沢が右授与された代理権の範囲をこえて本件土地を菊池に売り渡すに際し、菊池において遅沢に右土地売渡につき代理権ありと信ずべき正当の事由が存する旨判断し、結局、利満が菊池に対し右売買の効力を争い得ない旨判断したのは正当である。
 よって、後藤利満の上告を棄却する。

3 無権代理人が本人を相続すれば契約は有効になる

 今回のケースで裁判所は、無権代理人が本人を相続し、本人と代理人との資格が同一人に帰するにいたった場合には、本人が自ら法律行為をしたのと同様な法律上の地位を生じたものと解するのが相当であるとしました。
 大審院の時代から、無権代理人が本人を相続した場合には、無権代理行為が有効になるとされてきたところ、この判決により最高裁判所の立場も明確にされたと解釈するとよいでしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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